世界初「盗まれた文化財のバーチャルミュージアム」がオープン──サウジアラビアが資金提供
ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)による「盗まれた文化財のバーチャルミュージアム」がオープンした。世界初の試みであるこのミュージアムでは、数千点の遺物を3Dで閲覧できる。

9月29日、バルセロナで開催されたユネスコの「文化政策と持続可能な開発に関する世界会議」で、略奪・盗取された文化財を展示するバーチャルミュージアムの公開が発表された。同ミュージアムの設計は、2022年にプリツカー賞を受賞した建築家のフランシス・ケレが国際刑事警察機構(インターポール)などの協力を得て行い、資金はサウジアラビアから提供されている。
ユネスコは声明で、バーチャルミュージアムは「(文化財の)不正取引への意識を高める統一的な戦略が必要だとする国連加盟国の要請に応えて開発された」と説明。さらに、「ユネスコの1970年条約(文化財不法輸出入等禁止条約)は、締約国に対し文化財の不正取引と闘うことを求めている。インターポールは、組織犯罪ネットワークによるこの市場の支配がますます強まっていると警告している」と注意喚起した。
バーチャルミュージアムは5つの地域に分かれ、複数のセクションで構成されている。そのうちオーディトリアムと呼ばれるセクションには、同ミュージアムの目的が「世界共通の遺産を保護し、文化財の略奪や不正取引と闘うこと」と明記されている。
展示物の中には、中国の明代(1368–1644年)に作られた青銅の仏像や、シリアのパルミラ博物館から奪われた金のペンダント(120年頃)などの文化財が含まれる。また、「返還・回復展示室」では、略奪文化財や盗取された遺物がどのように回収されたかに関する情報が掲示されている。たとえば、2024年にチリの税関が押収し、モロッコに返還された三葉虫の化石などの事例だ。
ユネスコ事務局長のオードレ・アズレは声明で、このバーチャルミュージアムについて次のように述べている。
「盗まれた遺物やその欠片の背後には、歴史やアイデンティティ、そして人間性を伝える断片が存在します。それらは、本来の管理者から引き裂かれ、研究に利用できなくなり、忘却の淵に沈みゆく危険にさらされているのです。私たちの目的は、こうした文化財を再び光の当たる場所に置き、社会が自らの遺産にアクセスし、それを体験し、そこに自らの姿を認める権利を取り戻すことです」(翻訳:石井佳子)
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