「人間には善意が残っていた」──返還拒否から一転、盗まれた《聖母子像》が約50年ぶりに帰還

1973年にイタリア・ベッルーノ市立美術館から盗まれたアントニオ・ソラーリオの《聖母子像》が、7月21日に返還された。2017年に所在が確認された際、所有者だった女性は返還を拒否していたが、その後、弁護士による交渉を経て最終的に返還に応じた。作品は修復前に、7月27日まで同館で展示される予定だ。

アントニオ・ソラーリオ《聖母子像》 Photo: Courtesy of Art Recovery International, LLC
アントニオ・ソラーリオ《聖母子像》 Photo: Courtesy of Art Recovery International, LLC

アントニオ・ソラーリオの《聖母子像》が、イタリア北東部に位置するベッルーノ市立美術館に7月21日に返還された。この作品は、1973年に同館から盗み出されていた。

作品を所有していたバーバラ・デ・ドージェは亡くなった元夫からこの作品を相続した。当初は返還を拒んでいた彼女だが、美術品返還が専門の弁護士事務所、アート・リカバリー・インターナショナルのクリストファー・マリネロの働きかけにより、これに同意したという。ソラーリオの《聖母子像》が返還されたことを受け、マリネロはこう語る。

「美しい聖母子像と素晴らしい街にある小さな美術館、地元の人々はそれを誇りに思っています。市民や未来の世代のために文化遺産を守る機能をもつ美術館にとって、盗難事件は一大事です。犯罪以外の何ものでもありません」

《聖母子像》は1872年にベッルーノ市立美術館に収蔵されたが、その100年後に他の作品とともに盗まれた。盗難被害にあった作品の一部は、その後すぐにオーストリアで発見・返還された一方で、デ・ドージェの夫はそこで匿名の人物からソラーリオの作品を購入していた。

この宗教画は、デ・ドージェが地方のオークションハウスを通じて売却しようとした際に、ベッルーノ市立美術館の関係者によって2017年に発見された。作品が盗品であると指摘されたことで出品は中止されたが、イギリスのノーフォーク警察は作品を没収せず、デ・ドージェに返却している。

その後マリネロはデ・ドージェに対し、ベッルーノ市に作品を返還し「正しい行い」をするよう説得し続けた。彼女は当初、1980年の出訴期限法を根拠に作品の返還を拒んでいた。この法律では、購入者が盗難に関与していない限り、購入から6年が経過すれば所有者として合法的に認められるとされている。だが、マリネロは彼女の主張を「理にかなっていない」と一蹴し、こう語った

「イギリスの出訴期限法は、彼女が正当な所有者であることを裏付けていますが、この絵画は国際刑事警察機構(インターポール)やイタリア国家憲兵の盗品美術データベースに登録されています。つまり、この絵画は押収されるリスクなしには、売却も展示もできなかったのです。しかし、略奪美術品を所有している多くの人々が作品を手放そうとしないなか、彼女の決断によって、人間にはまだ善意が残っていることが示されました」

返還された《聖母子像》は7月27日まで美術館内で展示されるという。展示期間が終了した後は、絵画の表面に入った亀裂や、絵具の剥落などを修復するために専門業者に引き渡される予定だ。

あわせて読みたい