約50年前にイタリアの小さな美術館から盗まれた《聖母子像》の所在が判明。所有者は返還を拒否
イタリアの小さな町の美術館から1973年に盗まれたアントニオ・ソラリオ作《聖母子像》の所在が明らかになった。美術館は文化遺産として返還を求めているが、現在の所有者であるイギリスのドージェ男爵の元妻は要求を拒否、交渉は難航している。

16世紀に描かれ、50年以上前に盗まれたアントニオ・ソラリオによる《聖母子像》の所在が明らかになった。
《聖母子像》は1973年、本作を所蔵していたイタリア北東部の山地ドロミティにあるベッルーノ市民美術館から何者かに盗み出された。それから数年後、イギリスのデ・ドージェ男爵が本作を購入し、以後、ノーフォークにある彼のチューダー様式の邸宅に保管されてきた。3月11日にAP通信が報じたところによれば、《聖母子像》は現在もドージェ男爵の元妻バーバラ・デ・ドージェが所有しているという。
《聖母子像》の所在が判明するきっかけとなったのは、バーバラ・デ・ドージェが2017年に本作をオークションに出品しようとしたことだった。作品が盗品であると指摘されたことで出品は中止されたが、地元ノーフォーク警察は作品を没収する代わりに、デ・ドージェに返却したという。 ノーフォーク警察はAP通信に対し、イタリア当局が何年もこの件を追及していないため、さらなる措置は取らないよう司法に指導されたと語っている。
この絵画の返還をめぐり、現在、バーバラ・デ・ドージェとベッルーノ市民美術館は激しい論争を繰り広げており、協議は難航している。過去に、アンリ・マティスやヘンリー・ムーアの作品を本来の所有者の元へ返還した実績をもつ美術品返還が専門の弁護士事務所、アート・リカバリー・インターナショナルのクリストファー・マリネロは、《聖母子像》の返還も成功させると語っているが、一筋縄ではいかない可能性もあるという。「北イタリアには家族のつながりがあるので、微力ながらも力になれればと思ってこの案件を引き受けた」というマリネロによれば、バーバラ・デ・ドージェは《聖母子像》を「必ずしも作品として好きではない」と認めており、「死んだ夫のことを思い出す」ため自邸に作品を飾ってもいないというが、絵画の返還を拒否しているという。
一方、ベッルーノの町にとって、ナポリとヴェネチアで活動したルネサンス期の芸術家であるソラリオは特別な存在であり、彼らの文化遺産の一部となっている《聖母子像》はオークションの査定額よりもはるかに高い価値がある。ソラリオ作品のオークション記録は、2007年にミラノのサザビーズに出品された別の《聖母子像》で、10万ドル(現在の為替で約1500万円)以上で落札された。
作品の返還をめぐる協議は依然として行き詰まったままだ。絵画はベッルーノに返還されるのか、それともイギリスに留まるのか。マリネッロの交渉にかかっている。(翻訳:編集部)
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