1トン近い古代ローマのモザイク画を密輸した男性に懲役刑。「中東の古美術商が逮捕されるのは異例」
カリフォルニア州に住む男性が、古代ローマ時代の神話が描かれたモザイク画を違法にシリアから持ち込んだとして禁固刑が言い渡された。現在はロサンゼルス市内で保管されている本作だが、モザイク画がシリアに返還されるか否かは今のところ決まっていない。
カリフォルニア州に住む57歳のモハマド・ヤシン・アルチャリヒが、シリアからアメリカに重さ約910キログラムに及ぶ古代のモザイク画の床面を違法に持ち込んだとして、3カ月の懲役刑を言い渡された。この判決は、2023年6月に行われた裁判において被告が虚偽の申告をした物品を持ち込んだ罪で陪審員が有罪判決を下してから1年以上が経過してから言い渡された。
また、カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所の判事ジョージ・W・フーは、アルチャリヒが持ち込んだ長さ約4.5メートル、高さおよそ2.5メートルに及ぶ床面の仮差押命令を求める政府の申請を承認している。今回の判決についてロサンゼルス検察局の広報担当者は、ARTnews US版の取材に対して次のように語る。
「中東からの古美術品の密輸業者が逮捕され、起訴されることは異例です。この判決によってこうした犯罪には実刑判決が下ることを、古物商や密輸業者、博物館関係者、そして一般の人々に理解してもらえたらと思います」
2000年ほど前に作られたと推定されるこの床面に描かれているのは、古代ギリシャと古代ローマ神話の物語で、天から火を盗んで人間たちに与えたとして岩山に鎖でにつながれているプロメテウスを救出するヘラクレスの姿が描かれている。
アルチャリヒがこのモザイク画を不法輸入したのは、遡ること2015年8月。彼は1万2000ドル(現在の為替で約174万円)を支払って輸入したが、当時、「600ドル(同約8万7000円)以下の陶器製のタイルをトルコから輸入した」と、その品物について通関業者に虚偽の報告をしていた。
米税関・国境警備局によって撮影された、モザイク画の輸送に使われた大型の金属製輸送コンテナのX線画像によると、モザイク画はコンテナの前後の扉から離れた花瓶の山の後ろに厳重に隠されていたという。モザイク画はトルコからの貨物の一部としてロングビーチ港に到着し、税関を通過した後、トラックでアルチャリヒの自宅に運ばれたと考えられる。
その後、連邦捜査官は2016年3月にアルチャリヒの自宅を捜索し、ガレージでモザイク画を発見した。法廷文書によれば、アルチャリヒは捜査官に対し、このモザイク画が金銭的・文化的に重要な作品ではないと発言。モザイク画は押収され、ロサンゼルスの安全な施設で過去8年間保管されてきた。
南カリフォルニア大学の学生が運営するウェブメディア「USCアネンバーグ・メディア」の「Justice Reporting Project」によると、アルチャリヒは購入費用に加え、修復サービスに4万ドル(約580万円)を支払ったという。その後、古美術商に10万ドルから20万ドル(1144万〜2898万円)の査定を受け、ゲッティ美術館に売却をもちかけている。のちに政府の鑑定専門家は、このモザイク画を45万ドル(約6520万円)と評価した。
カリフォルニア州中部地区連邦検事局によると、アルチャリヒによるモザイク画の虚偽申告について、「国連安全保障理事会が、テロ組織のISILとアル=ヌスラ戦線によるシリアの文化遺産の破壊を非難する決議を採択した数カ月後に発生した 」と指摘している。
判決が下されたとはいえ、モザイク画が返還されるか否か依然として決まっていない。連邦捜査局のロサンゼルス支局は、アルチャリヒ事件について上訴中であると語ったが、本作の行方がどうなるかはコメントしていない。将来的に返還の可能性があったとしても、シリア国内における博物館や倉庫、遺跡の略奪は現在も続いている。(翻訳:編集部)
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