今年のピューリッツァー賞を黒人と先住民のアーティストが受賞
5月9日に発表された今年のピューリッツァー賞で、画家のウィンフレッド・レンバートと音楽家のレイヴン・チャコンが受賞を果たした。数多くの著名作家やジャーナリスト、批評家と並んで芸術分野から受賞者が出るのはめったにないことだ。
ウィンフレッド・レンバートは2021年に亡くなっているが、エリン・I・ケリーとの共著による回想録『Chasing Me to My Grave: An Artist's Memoir of the Jim Crow South(私の墓場まで追いかけてくる:ジム・クロウの南部に関するアーティストの回想)』で伝記部門の受賞者となった。
もう1人、「Voiceless Mass(声なきミサ)」を作曲したレイヴン・チャコンは、音楽部門での受賞。現在開催中のホイットニー・ビエンナーレ(9月5日まで)に参加している。
21年に出版されたレンバートの回想録『Chasing Me to My Grave』では、人種差別や米国の刑務所制度に関する彼の実体験が詳しく語られている。服役中、彼のトレードマークとなった革に描いたり彫ったりする手法がどのようにして生まれたかなど、タフツ大学教授のケリーがレンバートの口述をまとめる形で完成させた。
ほかにも、暴徒にリンチされて奇跡的に助かったこと、刑務所での労働、そして人生の比較的遅い時期に美術制作に心を奪われたことなどが、詩的で研ぎ澄まされた描写で語られている。なお、出版と同年に、ニューヨークのフォート・ガンズボート・ギャラリーでレンバートの回顧展が開催された。
この回想録は、「1950~60年代にかけて、古い考え方が残る米国深南部(ディープサウス)の片隅で過ごしたアーティストの人生における虐待、忍耐、想像力、そして美術への転換を一人称で描いた心に迫る物語」と評価された。
芸術家の伝記の受賞は、2005年にウィレム・デ・クーニングの伝記でマーク・スティーブンスとアナリン・スワンが受賞して以来となる。
一方、チャコンの「Voiceless Mass」は、21年の感謝祭の日にウィスコンシン州ミルウォーキーのセント・ジョン大聖堂で演奏された。
「先住民のアーティストとして、米国国民の祝日には作品を発表しないようにしているが、今回は例外だ」と、ディネ族の一員であるチャコンは話していた。この作品は「権力者が土地を譲り渡そうとしない時、声なき者に声を与える」という思いを込め、聖堂で大音量で鳴り響くパイプオルガンを中心に構成している。
ピューリッツァー賞は受賞理由について次のように述べている。「パイプオルガンとのアンサンブルによるこの曲は、魅惑的で独創的な作品であり、教会という場において歴史の重みを思い起こさせる。また、一度耳にしたら忘れられない衝撃を体感させる凝縮された力強い音楽表現だ」
2組にはそれぞれ賞金1万5000ドルが贈られた。(翻訳:清水玲奈)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年5月9日に掲載されました。元記事はこちら。