ピカソの絵に環境活動家がピンクの塗料。背景にはカナダの熱波と異例に早い山火事の深刻化

6月19日、カナダのモントリオール美術館で展示中のピカソの絵に、環境活動家が鮮やかなピンクの塗料を投げつける事件が起きた。現在熱波に襲われているカナダでは、5月末から各地で山火事が発生しており、抗議を行った活動家はそれを気候変動による深刻な影響の一例として挙げている。

顔の部分がピンクの塗料で覆われたパブロ・ピカソの《L'hetaire》(1901)。Photo: Last Generation Canada

環境活動団体「ラストジェネレーション・カナダ」のメンバーが、6月19日にモントリオール美術館でアートアタックを実行した。同団体がインスタグラムに投稿した動画には、ピンクの塗料がパブロ・ピカソの絵画《L'hetaire(レテール)》(1901)に投げつけられた瞬間が映っている。抗議を行った活動家はその後、美術館の警備員によって展示室から退去させられた。

同団体のインスタグラムの投稿には、マルセルと名乗る21歳のメンバーによる次のような声明が記述されたものもある。

「今日、私は芸術を攻撃しているのでも、破壊しているのでもありません。私はそれを守っているのです。芸術の核心は生命の描写で、生きている者による生きている者のためのものです。死んでしまった惑星に芸術は存在しません」

声明では、マニトバ州の州都ウィニペグの状況が憂慮すべき例として挙げられている。ウィニペグは、隣接するサスカチュワン州の一部とともに現在記録的な熱波に見舞われており、カナダ当局はここ数週間の例年になく暑く乾燥した天候で、夏の山火事が深刻化すると警告を発している。カナダでは例年夏に森林火災が多く発生するが、今年は異例に早い山火事シーズン入りで、すでに各州で数千人から1万人以上が避難を行った。

マルセルの声明はこう続く。

「もし私が今ウィニペグにいたとしたら、まだアートを作ることができるでしょうか。私に時間、エネルギー、資源があるでしょうか? それとも、政府が自国民を守ろうとしないために、自分の生存と幸福のための戦いに巻き込まれるのでしょうか?」

ピンクの塗料を投げつけた後、活動家は警備員に退去させられた。Photo: Last Generation Canada

英インディペンデント紙がモントリオール警察に確認したところによると、塗料を投げつけた活動家は逮捕されたのち身柄を解放されたが、後日出廷することが求められている。また、警察の声明によると、アートアタックの様子を撮影していた2人のメンバーは、いったん拘留されたが、罪を問われず釈放されたという。

この5年間、展示中の有名作品をターゲットとした環境活動団体のアートアタックが、欧米各所の美術館で実行されてきた。その中心となった団体は、「ラストジェネレーション」の各支部や、イギリスを拠点とし、ロンドンの大英博物館を狙った抗議行動で知られる「ジャスト・ストップ・オイル」のグループだ。

しかし、ゴッホドガなどの作品を狙う戦略が有効かどうかについては世論が二分されており、これまでには抗議活動の参加者が実刑判決を受けた事例もある。

そんな中、2022年11月にウィーンのレオポルト美術館でクリムトの絵に黒い油をかけたことがニュースになった「ラストジェネレーション・オーストリア」は、昨年8月に解散を発表した。その理由として、「(環境問題に関する)知識のなさ、殺害予告を受けたこと、数万ユーロ(数百万円)にのぼる罰金」が挙げられ、活動の必要性について認知度を高めるには乗り越えられない壁があるとしている。

同団体は「成功の見込みはない」と述べ、それまでに受け取った資金の残りは未払いの訴訟費用に充てられると説明した。なお、ジャスト・ストップ・オイルも、この3月に破壊的な直接行動の中止を宣言している。(翻訳:石井佳子)

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