ロシア司法省がプッシー・ライオットを過激派組織指定へ。理由は《警察国家》パフォーマンスか
ロシアの司法省が、フェミニスト・パンクロック・アート集団プッシー・ライオットを過激派組織に指定する動きを見せている。メンバーの1人、ナジェージダ・トロコンニコワが、11月末にシカゴで《警察国家》というパフォーマンスを行っていた期間中に明らかになった。

ロシア司法省は、反体制パフォーマンスで知られるプッシー・ライオットを過激派組織に指定する方向で動いている。同国のアレクサンドル・グツァン検事総長がプッシー・ライオットによるロシア国内での活動を禁止する訴訟を提起し、12月15日にはモスクワのトヴェルスコイ裁判所で公聴会が開かれるという。これは、同グループのメンバーであるナジェージダ・トロコンニコワが、11月25日から30日までシカゴ現代美術館でパフォーマンス作品《警察国家》を上演したのを受けた対応と見られる。
これまでにもプッシー・ライオットのメンバーは、ロシア政府から他国の工作員、犯罪者、テロリストと指弾されてきた。また、国際指名手配リストに載せられてもいるが、過激派組織の指定に向けた公式な告発は今回の訴訟が初めてだ。これに対し、現在アメリカ在住のトロコンニコワは、US版ARTnewsの取材に次のように答えている。
「他の国では、政府から支援を受け、(私たちのようなパフォーマンスを行うために)ヴェネチア・ビエンナーレに出展ブースを設けることもあるでしょう。でもロシアでは、刑事事件にされたり、過激派と呼ばれたりするのです。私たちはこれを名誉の勲章として、そして私たちなりのヴェネチアのブースとして……真実と笑いで(ロシアの)体制を倒すことへのトロフィーとして受け止めます。第2次世界大戦とナチス打倒の誇り高い記憶を持つロシア人は、芸術運動に『過激派』や『堕落』とレッテルを貼る愚かさを改めて認識する必要があるかもしれません」
プッシー・ライオットは2012年から13年にかけ、プーチン大統領を批判する楽曲をロシア正教会の聖堂で演奏したことがフーリガン行為に当たるとして有罪になり、服役している。今回シカゴ現代美術館で行われた《警察国家》のパフォーマンスでは、同美術館のシアターにロシアの刑務所の独房が再現された。
シカゴ現代美術館の展示解説には、トロコンニコワは5日間にわたるパフォーマンス期間中、独房のインスタレーションから一歩も離れず、「服役中と同じように服を縫い、不気味な子守唄や耳をつんざくような爆発的ノイズを織り交ぜた新しい没入型サウンドスケープをリアルタイムで創り出す」とある。また、周囲の壁を覆うのはロシアやベラルーシ、アメリカの元政治犯たちのアート作品だ。
《警察国家》は、今年6月にもロサンゼルス現代美術館で上演されている。しかしこの時は、移民取り締まりへの抗議デモをめぐる混乱で同館の一部が閉鎖される状況となり、途中で中止された。トランプ大統領がカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事の反対を押し切り、移民税関捜査局の強制捜査に対する抗議活動を鎮圧しようとロサンゼルスに州兵を派遣したためだ。
当時トロコンニコワは英ガーディアン紙に、デモが行われている街頭に出たかったが、抗議活動の音声を生配信で独房で流しながらパフォーマンスを続けることにしたと説明。そのときのことを、「ワームホール(*1)に入ったような感覚だった」と表現している。
*1 2つの離れた領域を直接結び付けるトンネルのような時空構造。
さらに9月、プッシー・ライオットが動画やパフォーマンスを通じてロシア軍に関する「虚偽情報」を流布したとして、モスクワの裁判所がメンバー5人に、欠席裁判で8年から13年の実刑判決を言い渡した。
ロシア政府は2023年に、宗教冒涜を理由としてトロコンニコワに対する刑事事件を立件し、ロシアの指名手配リストに掲載している。その理由となったのは、《プーチンの灰》というタイトルのパフォーマンスだ。同作では、目出し帽を着けたトロコンニコワと11人の女性が、砂漠のような荒地で3メートルほどのプーチンの肖像画に火をつけて燃やす様子が動画で撮影された。
トロコンニコワは当時こう語っていた。「(プーチンは)それを気に入らなかったでしょう……私たちがプーチンに立ち向かい、ウクライナを支援する意思のある西側同盟国との団結を示したことで、彼に不安を与えるのに十分な注目を集められたと思います」(翻訳:石井佳子)
from ARTnews