香港M+のファサード・コミッションにシャジア・シカンダー。帝国と交易の歴史を描写

香港の現代美術館、M+が今年の「M+ファサード」コミッション作品を発表した。アート・バーゼル香港の開催に合わせてお披露目される本作を手掛けるのは、パキスタン系アメリカ人アーティスト、シャジア・シカンダーによるアニメーション作品だ。

Shahzia Sikander at work. Photo Christopher Garcia Valle
スタジオで制作するシャジア・シカンダー。Photo: Christopher Garcia Valle

香港・西九龍文化地区に位置する現代美術館M+が、最新の「M+ファサード」コミッション作品を発表した。3月23日から6月21日まで同館の全長数百フィートにおよぶLED内蔵型の巨大メディアスクリーンに映し出されるのは、パキスタン系アメリカ人アーティストのシャジア・シカンダーによる手描きアニメーション作品《3 to 12 Nautical Miles》(2026)だ。本作は、M+とアート・バーゼルによる共同コミッションとなる。

帝国、権力、交易の相互作用を掘り下げる意欲作

《3 to 12 Nautical Miles》は、帝国と商業が絡み合う歴史を主題としてきたシカンダーの探究をさらに推し進める作品だ。帝国主義期のイギリス、インド亜大陸、清朝中国を結びつけながら、これらの地域間で視覚言語や造形がどのように伝播してきたのかを、より広い文脈で検証する。本作では、アクバル2世の治世下で衰退していくムガル帝国の姿や、国内に混乱を抱える時代における清朝との交錯、さらに東インド会社が商業組織から植民地支配の担い手へと変貌していく過程が描かれる。その帰結として描写されるのは、インドでのアヘン栽培と中国との交易を発端とし、海洋国境をめぐる対立を背景に勃発した第一次アヘン戦争だ。

M+の館長であるスハニヤ・ラッフェルは、今回のコミッションについて次のように述べる。

「アート・バーゼルおよびUBSとの協働が5年目を迎える節目にあたり、帝国、権力、交易の相互作用を、国境を越えた歴史的文脈の中で思慮深く掘り下げる作品をM+ファサードで紹介できることを大変嬉しく思います。中央アジアおよび南アジアの細密画に根ざしたシャジア・シカンダーの実践は、過去と現在のグローバル化をアートを通して捉える、独自の視座を提示してくれます」

非西洋の伝統と西洋的要素を融合

シカンダーは、現在活躍するパキスタン出身アーティストの中でも最も重要な存在のひとりであり、絵画、彫刻、映像といった多岐にわたる分野で世界各地のコミッションを手がけてきた。1990年代以降は国際的なビエンナーレの舞台でも継続的に紹介されている。

ニューヨークのマディソン・スクエア・パークでの展示を経て、ヒューストン大学に移設されたシャジア・シカンダーの《Witness》(2023)。Photo: Selcuk Acar/Anadolu Agency via Getty Images

ラホール生まれで、現在はニューヨークを拠点とする彼女の実践は、パフォーマンス、絵画、インスタレーションを含み、中央・南アジアにおける植民地主義の持続的な影響を掘り下げてきた。細密画を現代的に再解釈した初期の代表作《The Scroll》(1989–90)に見られるように、地域に根ざした伝統的な美術形式と西洋的要素を融合させることで、身体や信念の移動が孕む緊張関係を浮かび上がらせている。

喫緊のグローバル課題に対する応答

アート・バーゼル香港のディレクター、アンジェル・シャン=ルーは次のように語る。

「シャジア・シカンダーの作品がM+ファサードを変容させ、現代美術を公共空間と結びつける様子を見ることは、非常に意義深い体験です。相互接続性がますます高まる世界において、喫緊のグローバルなテーマについて立ち止まり、考えるきっかけを観客に与えてくれます」

なおシカンダーは2024年、ヒューストン大学に設置された自身の記念碑的彫刻《Witness》(2023)が、中絶反対団体から「悪魔的イメージを助長している」と非難され、襲撃を受けたことで話題となった。彫刻作品の頭部が切断されたが、シカンダーは修復を行わない決断を下している。(翻訳:編集部)

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