反転する欲望のまなざし──空山基が語るエロス、品、そして東洋的視線

セクシーロボットで国際的に知られる空山基の作品は、単純な欲望の表出ではない。その実践には、「主流」とされる者たちの欲望を、むしろ反転させる複雑さがある。79歳の現在も更新され続けるその思考を聞いた。

Photo: Koki Takezawa

上海から巡回となる空山基の「SORAYAMA 光・透明・反射 ーTOKYOー」が、5月31日まで東京・京橋のCREATIVE MUSEUM TOKYOで開催中だ。絵画や立体作品、ブランドとのコラボアイテムまで、空山の1970年代から現在までの活動を展望できる過去最大規模の回顧展。ハイパーリアリズムによるセクシーロボットで独自の世界を築き、グローバルに愛される空山だが、そのキャッチーな外見の裏側には、想像以上に複雑なコンテクストが潜んでいる。欧米のアートマーケットが求める欲望の回路をあえて利用しながら、東アジアの作家として女神像をその視線の対象に据える──その身振りは、静かで鋭い批評でもある。齢79の現在も、歯に衣着せずかくしゃくと話し、タブーギリギリの冗談を飛ばす空山と、かつては家族と暮らし、現在はアトリエの一つとして使用している古いマンションで対話した。

金属はエロティック

──空山さんと言えば、メタリックな人体表現が代表的です。なぜ金属に惹かれるのでしょうか。

金属はエロティックなんですよ。まぶしいものに色気を感じる。日本刀の切っ先とか、すごくセクシーだよね。

子どものころから金属に惹かれていて、当時は刀鍛冶になりたかったのね。でも修行とか訓練とか辛いことは嫌だから断念したけど。

──なぜ金属に惹かれていたのでしょう?

振り返ると、父親が大工で、母親が裁縫をしていて、木と布は幼少期から身近な存在だった。一方、金属にはその意味で縁がないから、コンプレックスのような感情があったね。憧れというのかな。憧れって、手に入らないほど強くなるでしょ。

空山のアトリエ。Photo: Koki Takezawa
本棚は色分けされて整理されている。Photo: Koki Takezawa
これまでに制作したコラボレーションアイテムがそこここに。Photo: Koki Takezawa

──空山さんが金属を「エロティック」とおっしゃるのは、どういう状態を指しているのでしょうか。おそらく、エロスというのは性的指向にかかわらず感じられるものとしておっしゃっているのだと察しますが。

肉欲じゃないんですよ。異性愛者だって、同性にセクシーだなと感じることはあるでしょう?
多分、その人のメンタルで惹かれているんだと思います。宇野亜喜良さんとか、湯村輝彦さんとか、結構まぶしいよね。

──なるほど、金属=まぶしい=エロスということですね。ちなみに、子どもの頃から絵を描くことが好きだったんですか?

お母さんは映画が好きで、絵もうまかったの。頭もよかったんだけど、絵を生業にするとかそういうのはなくて。よく、夏休みの最後の日に母親に宿題の絵をわーっと描いてもらったりして、それが常に表彰されるの(笑)。私も絵を描くのは好きで、結構ほめられて、よく小学校の校門に掲出されたりしていた。やっぱり、楽しいことしかできないでしょ。誰にとっても辛いものは嫌でしょう。練習とか努力とか、辛いから向いてないの。絵を描くのは楽しかったんだね。

おっぱいに貴賤はない

──女性像へのこだわりはいつ頃芽生えたのでしょう?

中学の時、試験の際に前の席の女の子のブラジャーが制服から透けて見えて。ホックを凝視しちゃって、ほとんど白紙で回答紙を提出したことがある(笑)。欲情したとかそういうことではなくて、単純に、間近で見るのはそれが初めてだったから好奇心が掻き立てられて、目が釘付けになっちゃったんだ。

描くおっぱいは、大きすぎず、小さすぎず、そこそこのサイズ。かつて、寺田克也が「おっぱいに貴賤はない」って言ったんだけど、その通りだね。

セクシーロボット原画。Photo: Koki Takezawa

──わたしは、空山さんの女性像を心から「エロティック」だと感じたことはないんです。

わたし自身、それが足りないと思ってるんですよ。わたしは無教養で品がないから、女性を品よく、かっこよく、女神のように描きたいのよ。単にエッチな絵であれば、公衆便所の落書きの持つあのエネルギーには負けるんです。でも、その土俵に上がろうとは全く思ってない。それでも何とかして描こうっていうのがあるから、女の人のファンも多いんじゃないかな。

──実際のところ、女性を描いているわけではないんですね。

女神ですよ。「セクシーロボット」も、本来の出発点は女神の造形であり、京橋の個展でも、タキオン──光より速いと仮説される粒子で、光に先行する予兆のような信号を持つとされる──の女神の像を冒頭で展示してる。そうすることで、裸体表現への拒絶反応を回避しながら、より本質的なテーマを提示できるから。

──空山さんにとっての品というのをもう少し詳しく教えていただけますか?

恋愛の着地点がセックスだとすると、品がいい人は、好きな相手に対してむき出しで「一発どう?」とは聞かないでしょ。相手が断れるように、柔らかくオブラートに包む。それを品だと思ってて。女性のヌードを表現するには、やっぱり社会性があって、品を保たないと。そうじゃないと、拒絶反応の方が多いんじゃないかな。

クリエイティブに答えはない

Photo: Koki Takezawa

──ご自身の作品と他者との関係性を常に意識しながら制作されているんですね。

自分の欲望のまま発信しても伝わらないですよ。キャッチボールだから。評価されないと嫌だもの。

──そういうスタンスであることには、広告出身であることも関係していますか?

そうです。広告には、アイドマ(AIDMA)の法則(消費者が商品を認知し、実際に購入するまでの消費行動プロセスを仮説化したもの)があるから。暴力的に自分の言いたいことだけを言って、嫌悪感を与えるというふうにならなかったのは、広告業界でキャリアをスタートさせたから。それはラッキーだったと思いますね。

もちろん、わたしにも自分のエゴだけで描いた作品はあります。それらの多くは、時代的に発表できない。多分、自分が死んだときに発表されるんでしょう。でも昔から、わたしが尊敬してる人はみんな、モラルだとかルールだとかに縛られずにやってきた人たち。ダ・ヴィンチだってそうでしょ。そういうことを面白がる悲しい習性があるんだよね。クリエイティブって答えがないし「破壊」とかそういうので、まとめたり和を尊ぶのはビジネス側の人がやることだと思ってる。

──女性モデルの原風景は身近な女性ですか?

いや、映画です。往年のハリウッド女優、マリリン・モンローとかグロリア・スワンソンとかね。あと、描く女性のベースはヒスパニック系です。『ペントハウス』と『プレイボーイ』を観察すると、マンズ・オブ・ザ・イヤーには様々な人種が入るのに、ペット・オブ・ザ・イヤーになると金髪で青い目に収斂していく。そういうマーケティングの論理がある。ペントハウスでは10年間レギュラーとして120点以上の作品を発表しましたが、その経験からも、最も広く受け入れられるのは複数の人種的要素が混在したヒスパニック系だという確信を得ました。アジア系もいっぱい描いてきたけど、見向きもされず買う人もいない。腹が立つから公開しないんです。男性の絵も描いているけど、同様の理由で非公開。

Photo: Koki Takezawa

──東アジアの作家であることを意識されることはありますか?

わたしがキリスト教徒ではないアジア人だから、セクシーロボットが問題視されず、国際的に受け入れられたという背景はあると思う。そうでなければ、とっくに激しい批判にさらされていたはず。アジア人だから放任されていることを逆手にとって、やりたいことをやってきた。さらに言えば、ロボットという題材そのものがオリエント的。キリスト教もイスラム教も、神に近い人間の像を作ることを偶像崇拝として禁じているから。ロボット──人間に似た存在の造形──という題材の選択自体、(その禁忌を持たない)東洋的な立場の表明とも捉えられる。セクシーな絵で見る人の間口を広く取ってるけど、じっくり見ると深い内容があるんです(笑)。

──これからやりたいことは?

セクシーロボットも、「発表できない」作品もまだまだ描いていきますよ。

今、3Dプリンターが発達して、良い原型師も見つけたから、女性の髪の毛の柔らかさやなびくスピード感をレジンで再現できるようになり、タキオンの立体をつくっています。昔、目の毛細血管や濡れた質感がリアル過ぎることを理由にボツになった飛行機のキャラクター絵も、リベンジしています。わたしがしっかり描けば気持ち悪くなんかならない。リアルな絵は説得力があるでしょ。アヴァンギャルドな絵なんて、みんな理解できてるのかな。あと、うちイグアナを飼ってるんだけど、動物にも愛される絵を描きたいね。さらには宇宙人にもわかる作品をつくりたい。

空山基(そらやま・はじめ)
1947年、愛媛県生まれ。専門学校卒業後、広告代理店を経て1971年イラストレーターとして独立。女性のアンドロイド「セクシーロボット」で広く知られるようになる。ソニー、ディオール、ステラ マッカートニー、ミズノ、ユニクロ、ウルオッテなど様々な企業ともコラボレーションを行っており、最近では、台湾のスターラックス航空の機体をデザイン。国内外での個展の開催、作品集の出版も多数。

SORAYAMA 光・透明・反射 ーTOKYOー
会期:3月14日(土)〜5月31日(日)
場所:CREATIVE MUSEUM TOKYO(東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 6F)
時間:10:00~18:00(金土、4月28日~5月6日、5月31日は20:00まで)
休館日:無休

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