永野護が貫くデザイン思想──すべての形は美しい
池袋・サンシャインシティで「DESIGNS 永野護デザイン展」が開幕した。独自の世界観で多くのファンを虜にする永野に、クリエイティビティの源泉から生成AI、そしてヒットの秘訣までを訊いた。

デザイナー、漫画家の永野護は約40年にわたり、そのメカニカル・キャラクターデザインとストーリーテリングで日本のアニメーション、漫画表現を牽引してきた。1983年に日本サンライズへ入社し、『エルガイム』や『Zガンダム』などのアニメに参加。1986年には現在まで続く長編漫画『ファイブスター物語(The Five Star Stories)』の連載を月刊『ニュータイプ』で開始した。
永野が生み出すロボットやキャラクターは、シャープさと曲線が同居するフォルムの中に機能性と装飾性、美しさと強さが同時に成立されており、一目でそれと分かる。特に、美麗さと緻密で複雑なメカニカルな構造美が両立する『ファイブスター物語』のモーターヘッド、ゴティックメードと呼ばれるロボット兵器のデザインは、模型・ガレージキットとしても高い人気を誇る。
こうした永野の創作は、どのようにして生み出されているのだろうか。その秘密を解き明かす展覧会「DESIGNS 永野護デザイン展」が、2025年12月19日から池袋のサンシャインシティで始まった。本展は2024年2月の埼玉での開催を皮切りに、名古屋、大阪、福岡を巡回し、東京は「集大成版」となる。デビュー前の作品や『エルガイム』『Zガンダム』『シェルブリット』『ブレンパワード』など、今まで携わった作品の原画、『ファイブスター物語』のカバーイラストや設定資料まで、永野の仕事を横断的にたどる構成だ。開催にあたり、永野に話を訊いた。
ビス1本にも意味がある
──永野さんのメカニカル・キャラクターデザインは、どんなふうに生み出されているのでしょうか?
これはもう自分の感覚としか言いようがありません。私は車やバイクなどのメカニックの知識をオタクレベルに持ちつつも、それを表に出さず、ファッションやロックなど80年代のカルチャームーブメントを前面に押し出したデザインをつくりました。実はビス1本にしても、どのパーツを留めているかなど全て意味があって描いています。パーツがぎちぎちに詰まっていたら放熱できない、内部空間に余白が無いとピストンが動かないなど、構造を考えてデザインしているんです。
──アニメやゲーム、ミリタリーに精通する一方で、ロックやファッションにも深く親しんでこられましたね。
私が育った高度経済成長期は、日本がとても面白かった時代です。学生運動が終わって、万博が開催され、カラーテレビが出てきて、第二次ベビーブームがありウルトラマンや仮面ライダーなど子ども向け番組がたくさん生まれた。70年代には洋楽ロックが大流行し、ファッションの世界では高田賢三さん、山本耀司さん、川久保玲さんたち日本人が世界で活躍し始めました。そんな文化背景から多くの影響を受けました。
手塚治虫さんやタツノコプロとかが好きで、中学生になったらロックに興味を持つようになり、特にロックバンドのレコードジャケットに大きな影響を受けました。30cm角の大きなサイズは、メディウムとしてもインパクトがありましたね。また、特撮ものが大好きで、子ども心に、ウルトラ警備隊やサンダーバードの制服とか着たいと思っていました。そうした作品に登場する衣装への興味から、次第にロックミュージシャンのヒッピースタイルやツイッギーのスタイル、アズディン・アライアなどのコレクションブランドまで、ファッションへの関心も高まりました。
ただ、こうしたインスピレーションからアイデアを得ることはあっても、特定の何かをイメージしてデザインしたものはありません。今まで自分の頭の中に入ってきたそれらのものが咀嚼され、デザインとしてアウトプットされています。
美しくないものはちゃんと描けていないだけ
──生み出されたロボットデザインは漫画や模型シーンを牽引し、今では最先端かつ最高のデザインと見なされていますね。
自分が描いたものが最高、私が基準という自負があります。だから、自分の好きなものをデザインする。過去のデザインが悪いわけではもちろんありません。昔デザインしたリック・ディアス(『Zガンダム』のロボット兵器)やレッド・ミラージュ(『ファイブスター物語』のモーターヘッド)も傑作とは思います。でも今描きたいとは思いません。自分にとって過去のものですから。
──永野さんは、作品連載中にたびたびデザインを変更していらっしゃいます。『ファイブスター物語』では、2013年に9年ぶりに連載が再開された際、ロボット兵器のモーターヘッドがゴティックメードになるなど、大きなデザインや設定の転換が起こり話題になりました。永野さんがその時々で「美」を感じられるものを描いているんですね。
まあ、何で私のデザインが美しいのかって問われても困るんですけど、もともと形ってみな美しいものじゃないですか。美しくないものは、ちゃんと描けていないだけじゃないかと思うんです。コーヒーカップにしても、トンカチにしても、本当に考えられてつくられた形ってすごく綺麗だと思うんですよね。
手描きの方がデジタルより圧倒的に速い

──『ファイブスター物語』は今なお、手描きで制作されています。一本一本の線から、画面の密度と緊張感が伝わってきます。なぜ手で描くことにこだわっていらっしゃるのですか?
やはり人は原画に引き付けられるんです。デジタル作品はモニターで見ればいい。実際の絵の強度には敵いません。あと、私の場合はデジタルで描くより手で描いた方が圧倒的に速いんです。線の太さを変えるためにコマンドを出さなければいけなかったり、筆圧でコントロールできるところをデジタルだといちいち手間がかかって仕方がないですから。
──一方、現代ではAIが発展し、誰でもイラストを気軽に生成できる時代になりました。この変化をどう見ていますか?
AIに正確な情報を学習させられますか? 事実なんて、その場にいた人しか分からない。よって、AIから出されるものは最大公約数です。AIの生成物は他人の褌で相撲を取っているもの。全て淘汰されていくと思いますね。
ヒットの秘訣は「好き勝手やる」こと
──手から生み出される永野デザインは多くのファンをつくってきました。最も大事にしていることは何でしょうか?
デザインは、子どもの目を引けるかが重要だと思っています。彼らの『うわっ』という感嘆の声を聞くと、内心勝ったと喜んでいます(笑)。次世代のためにつくっているわけではないんですが、子どもは情報の蓄積がないので先入観がない。最も感覚的です。その感覚に届く形をつくり続けたいとずっと思っています。
──小学校低学年の頃に模型誌で見たモーターヘッドの唯一無二のデザインがずっと記憶に残っています。このクリエイティビティがヒットの秘訣なのでしょうか?
というよりも、自分の好きなことを描かないとヒットしません。我慢して描いた漫画なんて誰も読みませんから。ウケを狙わず、好き勝手やる。作品の良し悪しの判断は自分自身か担当編集者のみ。マーケティングではなく、個人の表現が最も強いんです。
永野護(ながの・まもる)
1960年生まれ。京都・舞鶴出身。1983年に日本サンライズ(現バンダイナムコフィルムワークス)に入社。翌年テレビアニメ『重戦機エルガイム』で、キャラクターとメカデザインに抜擢され、注目を集める。ほかにもテレビアニメ『機動戦士Zガンダム』などに参加。1986年より角川書店(現KADOKAWA)発行の月刊アニメ誌『ニュータイプ』にて、漫画『ファイブスター物語』スタート。同作は2026年3月で連載開始40周年を迎え、同年春には単行本第19巻の発売を控える。2012年には、自身で監督や脚本を手がけた、劇場アニメーション『花の詩女 ゴティックメード』を公開。2024年より「DESIGNS 永野護デザイン展」を各地で開催。
DESIGNS 永野護デザイン展
場所:池袋・サンシャインシティ 展示ホールB(東京都豊島区東池袋3-1-4 文化会館ビル4F)
会期:2025年12月19日(金)〜2026年1月12日(月祝)※1月1日(木)は休業
時間:平日11:00~19:00、12月31日(水)・土日祝10:00~18:00(入場は閉場30分前まで)
料金:2300円※未就学児無料
https://tokorozawa-sakuratown.com/special/naganomamoru/





























