2000年前の炭化した巻物を「バーチャル開封」で解読──AIと超高精度スキャンで内容が明らかに

ヴェスヴィオ火山の噴火で炭化した古代の巻物を、最新のAIとX線技術で解読する試み「ヴェスヴィオ・チャレンジ」が驚くべき成果を発表した。仮想的な開封により、巻物を物理的に広げることなく明らかになったテキストには、倫理や芸術、人間の行動に関する古代ギリシャの哲学が記されていた。

上段左(a):封印された炭化した巻物、上段中と右(bとc):X線スキャンによる断面図で確認された同心円状の内部、下段(d):仮想的に展開された巻物の表面。Photo: Courtesy Vesuvius Challenge

西暦79年のヴェスヴィオ火山大噴火で壊滅した街の1つにヘルクラネウムがある。その後2000年にわたり、噴出物に呑み込まれた遺物や遺骸が地中に眠っていたヘルクラネウムの遺跡では、大量の炭化した巻物が出土した。

巻物が発見された「パピルス荘」と呼ばれる邸宅は、ポンペイの近く、ヴェスヴィオ山の麓から18キロほどの場所にあった。激しい燃焼で炭化した古代の巻物は非常に脆く、開こうとすると崩れてしまう。そのため、18世紀に発見されてから数百年の間、その内容を解読しようとする学者たちの試みは困難を極めてきた。

しかし近年、巻物の研究に大きな進展が見られた。それは、2023年にケンタッキー大学が立ち上げた「ヴェスヴィオ・チャレンジ」と呼ばれるプロジェクトによるものだ。同プロジェクトは、機械学習と高度なX線技術を活用し、現存するヘルクラネウムの巻物の解読を目指している。その成果はめざましく、プロジェクト開始からの数年、巻物に記された言葉や文章の解読に寄与した科学者・研究者らには、それぞれ数百万円から数千万円の賞金が授与されている。

6月下旬、ケンタッキー大学は、ナポリの国立図書館でヴェスヴィオ・チャレンジの「歴史的なブレークスルー」を発表。それによると、PHerc. 1667という巻物を仮想的に「広げる」ことで、現存する20カラム分のテキストが解読できるようになったという。そこに記されていたのは、倫理や芸術、人間の行動に関する哲学的な論考で、おそらく古代ギリシャのストア派の思想が反映されたものと見られる。

これに先立ち、昨年5月にもオックスフォード大学ボドリアン図書館が所蔵している別の巻物(PHerc. 172)から70カラム分のテキストが3次元画像に再構成され、エピクロス派の哲学者、フィロデモスの著書『悪徳について』の一部であることが特定された。

ヴェスヴィオ・チャレンジの共同創設者で、ケンタッキー大学でヘリテージ・サイエンスの講座責任者を務めるブレント・シールズはアートネット・ニュースに対し、フランスイギリスの研究者によるチームが実施した位相差X線マイクロトモグラフィーが今回の解読を可能にしたと説明。シンクロトロンという粒子加速器を用いたスキャンにより、非常に高い解像度が得られたとしている。

スキャンされたデータは、フランスのグルノーブルにある粒子加速器施設、欧州シンクロトロン放射光研究所(ESRF)がこれまでに作成した中で最大規模のデータセット(巻物1巻あたり最大300テラバイト)となる。次に、これらのデータセットを用いて巻物の詳細な3Dマップを作成。再構成された3次元画像からAIを活用してインク部分を識別し、解読が進められる。

2024年のヴェスヴィオ・チャレンジでは、ユセフ・ネーダー、ルーク・ファリター、ジュリアン・シリガーの3人がグランプリに輝き、賞金70万ドル(最近の為替レートで約1億1300万円)を獲得した。シールズによると、それからわずか2年の間にソフトウェアは「大幅に改良された」という。

また、ヴェスヴィオ・チャレンジに参加しているフェデリコ2世ナポリ大学のパピルス学者、フェデリカ・ニコラルディはプレスリリースで、PHerc. 1667は1980年代に一度広げようとされ、その際に損傷を受けたために可読性スコアがゼロと評価されていたと明かし、次のように述べている。

「しかし今や、『バーチャル・アンラッピング(仮想的な開封)』によって、複数のカラムにまたがる一貫した記述を追うことができるようになりました。これは画期的な変化です」(翻訳:石井佳子)

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