アメリカの「真の姿」を決めるのは誰か? 保守派議員がスミソニアンの歴史展示を追及
トランプ政権が「反アメリカ的」と批判するスミソニアンの歴史展示をめぐり、米議会で公聴会が開かれた。保守派議員による追及から見えてきたのは、国家が公認する歴史を誰が決めるのかという問題だ。
「ハーティグ博士、あなたはアメリカ・ファーストですか? アメリカを愛していますか」
7月21日に2時間にわたって開かれた連邦議会の公聴会で、テネシー州選出の下院議員ティム・バーチェットは、スミソニアン国立アメリカ歴史博物館(NMAH)の館長を務めるアンシア・ハーティグにこう問いかけた。公聴会は、同館がアメリカ史を継承する責任を果たしていないとの批判をめぐって開かれた。
公聴会で浮き彫りになったのは、マッカーシズムや1950年代の下院非米活動委員会(*1)を思わせる思想的な対立だった。歴史とプロパガンダの境界を決めるのは誰なのか。国家の歴史や記憶を書き換えることは、その国に何をもたらすのか。こうした重い問いが横たわる一方、会場では「自分が女性だと気付いたのはいつですか」「ミッキーマウスは人種差別主義者でしたか」といった奇妙な質問も飛び交った。
*1 1938 年に設立された下院委員会。共産主義者やその協力者の調査・告発を行い、マッカーシズム時代の「赤狩り」を主導した。
証人の顔ぶれも、この公聴会の重要性を物語っていた。2019年からNMAHの館長を務めるハーティグのほか、アメリカの歴史認識を研究するイェール大学の歴史家デヴィッド・ブライト、保守系キリスト教大学であるヒルズデール大学のマシュー・スポルディング、トランプ政権と強い結びつきをもつヘリテージ財団の上級研究員マイク・ゴンザレスが名を連ねた。
「歴史を救う」ための報告書
スミソニアン博物館群は、アメリカの文化機関を再編しようとする第二次トランプ政権の標的となっている。そのためハーティグは、公聴会で最も厳しい追及を受けた。連邦政府は7月4日、「Saving America's History(アメリカの歴史を救う)」と題した162ページの報告書を発表。スミソニアン協会を「極端な政治活動が行われている場」と非難し、展示プログラムや指導体制の抜本的な刷新を求めた。報告書は、同協会がアメリカを「白人至上主義、奴隷制、征服と排除、階層主義、人種差別、外国人嫌悪、ミソジニー、そして構造的な不正義によって形づくられた問題のある国」として提示していると主張している。これに対し、ハーティグは公聴会でこう述べた。
「スミソニアン協会は、ホワイトハウス国内政策会議の報告書で提起された懸念を真摯に受け止めています。現在も報告書の事実確認を続けていますが、これが博物館の取り組み全体を公平かつ正確に表しているものではないと、私たちは強く信じています」
また、公聴会の冒頭で民主党下院議員のメラニー・スタンスベリーは報告書を「魔女狩り」と呼び、「スミソニアン協会の博物館群を率いるトップを名指しで非難することは政策とは呼べない」と非難した。さらにスタンスベリーは、スミソニアンの完全性と歴史的独立性を守るための法案を提出すると発表した。大統領を含む連邦政府職員がアメリカ史の解釈に干渉することを禁じ、スミソニアン協会に認められた権限を改めて保障する内容だという。
「Saving America's History」の主張は、トランプ政権が2025年8月に始めた、スミソニアン協会傘下の19館を対象とする審査に端を発している。この審査は、政権が「反アメリカ的イデオロギー」と見なす表現を特定するため、展示内容や解説文を調べたものだ。今後は、アーティストへの助成金や、コレクションの展示方針にまで対象が広がるとみられている。全米の歴史家や文化団体は、こうした審査を政府による行き過ぎた介入だと批判してきた。スミソニアン協会が政権の報告書に反論すると、連邦政府からの資金援助を打ち切るとの警告まで飛び出した。
報告書の主要な争点の一つとなったのが、ジェンダーやセクシュアリティの流動性、アメリカにおけるクィア史を扱う展示や学術研究だ。公聴会でも、こうした取り組みは保守派の委員たちによる攻撃の的となった。
とりわけ共和党下院議員のナンシー・メイスは、「Girlhood, It’s Complicated(少女時代は複雑だ)」と題された展覧会の展示内容をめぐり、ハーティグを執拗に追及した。メイスが問題視した展示物の一つが、身体醜形障害(*2)に悩んでいたとみられる13歳の少女の日記から抜粋した文章だった。メイスは日記を読み上げ、「これが子ども向けの展示にふさわしいと言えるのか、教えていただけますか」と尋ねた。さらに、ジェンダーは必ずしも出生時に明らかになるものではないと記した展示に触れ、ハーティグに「あなたのジェンダーはいつ明らかになったのですか」と迫った。
*2 自身の身体的な外見に重大な欠陥があると思い込み、過度に執着してしまう精神疾患のこと。
これに対しハーティグは、博物館のアプローチは「厳密」かつ「事実に基づいた」ものであると主張し、「歴史的証拠や相反する視点」、そして「絶え間ない議論」を通じて「アメリカの完全で豊かな物語」を伝えることを目指していると答えた。
アメリカの「真の姿」とは何なのか
保守派の委員の一部はまた、海外におけるアメリカのイメージ形成においてスミソニアンが果たす役割についても疑問を呈した。
共和党下院議員のデヴィッド・ラウザーは、アメリカは「世界を主導し、奴隷制やあらゆるジェノサイドの根絶に尽力してきた」国だと主張した。そのうえで、世界の人々にも、それこそがアメリカの「真の姿」だと認識してもらう方がよいのではないかと、ハーティグに問いただした。
博物館がジョージ・ワシントンやトーマス・ジェファーソン、歴代の発明家たちを軽視しているとの指摘に対し、ハーティグは以前から反論してきた。この日も、アメリカの功績を称える複数の展示を例に挙げ、博物館の姿勢を説明した。ラウザーがスミソニアンに「この国が成し遂げてきた偉大で素晴らしい成果を高らかに宣伝する」よう求めたのに対し、歴史家のブライトは、アメリカ史を伝える意義についてまったく異なる見解を示した。
「勝利だけを強調する歴史は、細かなニュアンスや曖昧さ、複雑さを許容できません。しかし、こうした要素は私たち歴史家にとって、決して手放すことのできない生命線なのです」
一方、ヘリテージ財団のゴンザレスは、現在の指導体制のまま改革を進めても不十分だとして、スミソニアンの全面的な刷新を求めた。「スミソニアンには大掃除が必要です。上層部を入れ替えなければなりません」と述べている。
公聴会を締めくくったのは、民主党下院議員のクウェイシ・ムフーメだった。人種隔離政策の下で育ち、「有色人種用」と記された水飲み場を利用していた自身の経験を語ったムフーメは、声を荒らげてこう訴えた。
「あなた方がそれを消し去ろうとするなら、私たちが再び書き記すまでです。話は単純です」(翻訳:編集部)
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