作品を見る「目」を科学する──ダリ美術館、作品情報が見方に与える影響を研究
サルバドール・ダリ美術館で、作品に関する事前情報が鑑賞体験に与える影響を調べる研究が進んでいる。被験者の視線を追うアイトラッキング技術を使い、作品情報の有無や内容が、美術鑑賞にどのような違いをもたらすのかを探る。

フロリダ州セントピーターズバーグにあるサルバドール・ダリ美術館でアイトラッキング技術を用いた研究プロジェクトが進んでいる。サウスフロリダ大学セントピーターズバーグ校の心理学教員陣が主導するこの研究は、事前に得る作品情報の種類が鑑賞体験に与える影響を検証することを目的としている。
研究の参加者は、PC画面に小型カメラのような装置を取り付けたアイトラッキング機器の前に座る。この技術は、ダリ美術館とダートマス大学の「デジタル応用学習・イノベーション研究所(DALI Lab)」が共同で開発したもので、スペインのシュルレアリスム作家、サルバドール・ダリの作品を鑑賞する際に、参加者がどこを、どのくらいの時間見ているかを記録する。
参加者は作品を一度見た後、グループによって異なる情報を与えられる。作品自体についての説明を受けるグループ、ダリの伝記的な情報を受けるグループ、何も情報を与えられないグループに分かれ、その後もう一度同じ作品を鑑賞する。鑑賞後には、自身の属性や作品への感情的な反応について尋ねるアンケートに回答する。
研究チームは、こうした情報提供の違いによって鑑賞体験がどう変化するかを分析し、その結果を今後の展覧会づくりに生かしたいとしている。また、鑑賞者の属性や視線の動き、感情的な反応がどのように関わり合い、美術館での体験全体を形作っているのかについても調査する。
ダリ美術館は、これまでもテクノロジーを取り入れた鑑賞体験づくりに力を入れてきた。2022年から2023年にかけては、来館者が自分の夢を作品として表現できる体験型プロジェクト「Dream Tapestry」を実施している。参加者が任意の言語で夢の内容をテキストで入力すると、AIが「The Shape of Dreams」展で用いられた数億点規模の画像データなどを基に、それぞれの夢を表現したデジタル作品を生成する仕組みだった。
また同館は今年3月、およそ3250平方メートル、6500万ドル(約103億4070万円)規模の増築計画を発表している。今秋に着工し、2028年の完成を予定している。増築部分には、アートとテクノロジーを組み合わせた体験型展示に対応する可変式ギャラリーや専用の学習センター、イベントやプログラム向けの交流スペースなどが設けられる。同館では、テクノロジーを活用した展示や研究を通じて、鑑賞体験そのものを問い直す試みが続いている。