台湾で「サソリとカエル」展が11月開幕。ホックニーやベーコンらの名作で理性と本能の対立を探る
ティントレットとフランシス・ベーコンの作品を並置するなど、時代や地域を超えた名作の「対話」を試みる展覧会が台湾で開催される。YAGEO財団のコレクションから66点が出展され、理性と本能、精神と感覚といった対立する概念を探る。

台湾の台中市立美術館で11月20日、企画展「The Scorpion and the Frog: Masterworks from the YAGEO Foundation Collection」が開幕する。会期は2027年4月4日まで。本展では、YAGEO財団が所蔵するルネサンス期から現代までの34人のアーティストによる66点を展示し、うち55点は台湾で初公開となる。
展覧会名は、ロシアの寓話「サソリとカエル」に由来する。川を渡りたいサソリは、刺されることを恐れるカエルに、自分も溺れるのだから刺すはずがないと説明し、その背に乗せてもらう。ところが途中でカエルを刺してしまい、理由を問われると「それが自分の本性だから仕方がない」と答える。理性では抑えられない本能を描いたこの寓話をもとに、本展では聖と俗、意識と無意識、具象と抽象、精神と感覚といった対立する概念を、作品同士の「対話」を通じて浮かび上がらせる。
キュレーションを手がけるのは、ニューヨークを拠点とするフィリップ・ララット=スミスだ。2019年からルイーズ・ブルジョワの遺産を管理するイーストン財団のキュレーターを務め、2021年にはニューヨークのユダヤ博物館で「Louise Bourgeois, Freud's Daughter」を手がけた。ララット=スミスは本展の構想について次のように述べている。
「本展の構想の根底には、心と身体の対立があります。こうした対立はYAGEO財団のコレクション全体に通じるもので、抽象と具象、聖と俗、精神的な営みと感覚の世界といった対立にもつながっています。本展では、時代や地域を異にするアーティストたちの作品を互いに対話させ、従来の物語にとらわれず、直観と想像力に基づく構成を採っています」
本展では、イタリア・ルネサンス期の画家ティントレットの《Portrait of Cardinal Marcantonio da Mula》(1562〜63)と、フランシス・ベーコンの《Study for a Pope VI》(1961)が並べて展示される。ティントレットの肖像画が教会の威厳と権威を表現しているのに対し、ベーコンの「教皇」シリーズに含まれる本作では、教皇の姿が歪められ、権威の象徴が人間の弱さや本能を感じさせる不穏なイメージへと変貌している。
もう一つの注目作は、2026年6月に88歳で世を去ったデイヴィッド・ホックニーによる二重肖像《Christopher Isherwood and Don Bachardy》だ。小説家・脚本家のクリストファー・イシャウッドと、その長年のパートナーである画家ドン・バカーディを室内に描いた作品で、個々の人物以上に2人の関係性を捉えている。バカーディが鑑賞者に視線を向ける一方、イシャウッドはバカーディを見つめている。ホックニーが手がけた二重肖像画の連作に含まれる本作は、台湾で初公開となる。
このほか、アルテミジア・ジェンティレスキ、マーク・ロスコ、ゲルハルト・リヒター、杉本博司らによる、精神性や哲学的な問いを探究する作品も展示される。一方、ルイーズ・ブルジョワやグスタフ・クリムトの作品からは、身体をめぐる欲望や親密さ、心理的な緊張が浮かび上がる。さらに、アンディ・ウォーホル、ジェフ・クーンズ、パブロ・ピカソ、常玉(サンユー)らの作品を通じて、理性と感覚の境界を探っていく。
台湾の実業家、ピエール・チェン(陳泰銘)が1999年に設立したYAGEO財団は、古典から近代・現代までの東西の美術作品を収集し、絵画・彫刻・写真を中心とするコレクションを築いてきた。展覧会の開催や文化・教育プログラムの支援を通じて芸術交流を進めており、所蔵作品を世界各地の美術館・文化機関に貸与している。
会場となる台中市立美術館は、建築家ユニットSANAA(妹島和世+西沢立衛)が台湾の建築事務所と共同で設計した、市立図書館を併設する複合文化施設の一角にある。2025年12月に開館した同館での本展は、台中市政府とYAGEO財団の協働によって実現する。
The Scorpion and the Frog: Masterworks from the YAGEO Foundation Collection(「蠍子與青蛙:國巨基金會典藏展)
会期:2026年11月20日(金)〜2027年4月4日(日)
会場:台中市立美術館
時間:9:00〜17:00(土曜は20:00まで)
休館日:月曜日(台湾の祝日は開館)



