アート・バーゼル・パリ2026が開幕。メガギャラリーの売れ行きは好調、共同ブースは過去最多に
フランス各地で抗議活動が続くなか、アート・バーゼル・パリ2026の招待制プレビュー「アヴァン・プルミエール」が10月20日に開催された。主要ギャラリーが高額作品の売却を報告したほか、共同ブースも過去最多の12カ所に上り、市場の調整期におけるギャラリー間の協働も広がりを見せた。
週末に行われた抗議デモの痕跡が街の至るところに残るパリだが、アート界は変わらず動いていた。10月19日と20日には展覧会のオープニングや関連イベントが開かれ、20日午後3時にはアート・バーゼル・パリのアヴァン・プルミエールが幕を開けた。
2025年に新設されたアヴァン・プルミエールは、通常のVIPプレビューに先立って行われる招待制の内覧会だ。今年は開場10分前になっても大きな行列ができず、前年よりやや落ち着いた雰囲気だった。会場内は一部の通路で混雑が見られたものの、比較的スムーズに移動でき、大手ギャラリーのブースには購入意欲の高いコレクターが集まっていた。これは、フェアや各ギャラリーが招待客を慎重に選び、購買につながるコレクターに絞り込んだ結果なのかもしれない。
抗議活動が続くも、有力コレクターが来場
一部のディーラーやアート・アドバイザーによれば、抗議活動を懸念して渡仏を取りやめたコレクターもいたと語った。アメリカのコレクターは姿を見せないのではないかという懸念もあったが、会場では「TOP 200 COLLECTORS」に名を連ねるアリソン・バーグやグレン・ファーマン、パメラ・ジョイナーらの姿が見られた。また、俳優のケイティ・ホームズやナタリー・ポートマンに加え、ロサンゼルス・カウンティ美術館のCEOを務めるマイケル・ゴヴァンやMoMA PS1のキュレーター、ルバ・カトリブなど、アメリカの美術機関関係者も来場していた。
アート・アドバイザーのアナ・ソロコフはUS版ARTnewsの取材に対し、会場内の展示について「キュレーションが巧みで、細部までよく考えられています」と評価した。さらに、会場となったグラン・パレの魅力にも触れ、「ここは魔法のような場所です」とコメントしている。
ディーラーたちは今年のアヴァン・プルミエールについて、「活気がある」と口をそろえた。パリを拠点とするタンプロンのマチュー・タンプロンも、開始から1時間あまりが経った時点で「地元での開催ということもあり、幸先のいいスタートを切れています」と語った。同ギャラリーは、ビラル・ハムダッドの《L’envers du soir》(2026)を6万5000ユーロ(約1150万円)で販売したと報告している。ハムダッドは昨年、アート・バーゼル・パリの会期中にプティ・パレで個展を開いており、タンプロンによれば、作品への引き合いは引き続き強く、来年3月に予定されている個展にも高い関心が寄せられているという。

アヴァン・プルミエールは開催時間が限られるため、ほとんどのギャラリーの販売報告は1〜2件にとどまった。初日から多数の売約が報告される他都市のアート・バーゼルや、今月18日に終了したフリーズ・ロンドンとは対照的だ。
ロンドンとパリのアートシーンは、これまでもたびたび比較されてきた。ニューヨークとサンパウロを拠点とするコレクターのウィル・ペーリーは、フリーズとアート・バーゼルを「補完的な関係」と捉え、その違いを次のように説明した。
「フリーズは主に新進ギャラリーや若手アーティスト、より挑戦的な作品を求める若いコレクターに向けたフェアです。一方、アート・バーゼル・パリでは、より高額な作品が扱われています」

メガギャラリーの売れ行きは好調
ハウザー&ワースのプレジデント、マーク・ペイヨも、有力コレクターが集まることをこのフェアの強みと捉えている。しかし同時に、「難しいのは、街そのものにも魅力があることです。来場者はフェアだけを見るためにパリを訪れるわけではありません」と指摘する。フェアは、彼らの訪問目的のひとつにすぎないのだ。
タデウス・ロパックも、パリにはフェア以外に来場者の関心を引くものが多いと指摘する。そのためか、「パリではコレクターが購入を決めるのが早い」と感じているという。21日朝のVIPプレビューに再び訪れると話す顧客がいる一方、美術館やギャラリーの展覧会を優先したり、ショッピングを楽しんだりするために、アヴァン・プルミエールへの参加を見送る顧客もいた。それでもロパックをはじめとするディーラーたちは、かつてはスイスのアート・バーゼルでしか見られなかったような希少で高額な作品も、積極的にパリに出品している。
ロパックによれば、1906年から1938年にかけて制作されたパブロ・ピカソの作品4点のほか、ルーチョ・フォンタナの1953年のミクストメディア作品が180万ユーロ(約3億2000万円)、ゲオルク・バゼリッツの2019年の作品が80万ユーロ(約1億4200万円)で売却されたという。「非常に好調です。正直なところ、期待を大きく上回るわけではありませんが」とロパックは語る。
ペイヨは、通常のギャラリーでの取引に比べ、アートフェアでは売買が早く成立する傾向があると説明する。それでも、コレクターは購入を決めるまでに時間をかけるようになったという。
「約5年前と比べると、間違いなくペースは遅くなっています。それでも、優れた作品は最終的にふさわしいコレクションに収まるものです」
こうしたなか、ハウザー&ワースは20日午後の短時間で、ゲルハルト・リヒターの《Rokokotisch (Rococo Table)》(1965)を1000万ドル台(約15億8200万円以上)で売却している。この希少な初期作品は、事前のプレビューには含まれておらず、ブースに急きょ追加されたものだった。
また、ゲオルク・バゼリッツの《Der Hirte》(1965)には1000万ドル台で買い手が付いている。さらに、ジョージ・コンドの《Woman with Designer Shirt》(2026)を290万ドル(約4億6000万円)、ルーチョ・フォンタナの《Concetto spaziale》(1961)を170万ユーロ(約3億円)、フィリップ・ガストンの《Untitled》(1969)を150万ドル(約2億3700万円)、アレクサンダー・カルダーの《Four Dots and Brass Tail》(1953年頃)を100万ドル弱(約1億5800万円)で売却した。
1億ドル超のモディリアーニ作品も登場
ペース、ディ・ドンナ・ギャラリーズ、デイヴィッド・シュレーダーが2025年に共同設立したペース・ディ・ドンナ・シュレーダー(PDS)は、今回のフェアで最も高額とみられる作品を出品した。アメデオ・モディリアーニが横たわる裸婦を描いた油彩画《Nu étendu (Lolotte)》(1917)で、提示価格は1億ドル(約158億円)を超える。同ギャラリーによると、この作品が一般公開されるのは約1世紀ぶりだという。1917年にギャラリー・ベルト・ヴェイユで開かれたモディリアーニの生涯唯一の個展にも出品されており、同展は裸婦画がわいせつとみなされたことで物議を醸した。
PDSの共同創設者であるエマニュエル・ディ・ドンナは、フェアの滑り出しは「引き合いが殺到し、対応が追いつかない」ほど非常に好調だったと語る。ただし、モディリアーニの作品は買い手が決まるまでに時間がかかると見ている。
ガゴシアンは具体的な販売価格を明かさなかったものの、1987年制作のウィレム・デ・クーニング作品を1000万ドル以上(約15億8160万円以上)で販売したほか、ピーター・ドイグの作品も買い手がついたと発表した。ホワイト・キューブは、ジュリー・メレツによる2001年と2018年制作の絵画2点がそれぞれ785万ドル(約12億4150万円)で売れたほか、計16点の販売を報告。また、ピカソ作品が15万ユーロ(約2660万円)、フェルナン・レジェ作品が6万5000ユーロ(約1150万円)で売れるなど、歴史的な作家による紙作品も好調だったという。
このほか、US版ARTnewsが確認した販売実績には、グラッドストーンが出品したヴィクター・マンの絵画が30万ドル(約4700万円)、ワンゲチ・ムトゥのコラージュ作品2点がそれぞれ32万5000ドル(約5140万円)、クリマンツットが11万ドル(約1740万円)で販売したヤン・ヘギュの彫刻作品などが売れた。
ブリュッセルを拠点とするギャラリスト、ザビエル・ハフケンスは10点の販売を報告し、最高額はシャーリン・フォン・ハイルの絵画で47万5000ドル(約7510万円)だった。ハフケンスはメールで次のようにコメントしている。
「週末はかなり騒然とした状況でしたが、フェアの開幕直後から、アートに対する確かな熱気を感じています。パリには独特の魅力があります。矛盾を抱え、絶えず変化するエネルギーに満ち、至るところで驚きを与えてくれる街です。パリの標語である『Fluctuat nec mergitur(たゆたえども沈まず)』は、まさに今週の状況にふさわしい言葉だと感じます」
過去最多の共同ブースが示す市場の変化
デイヴィッド・コルダンスキーのパートナー、マイク・ホーマーは、購入を検討していた複数の作品が実際の成約に至ったと語る。「作品を実際に目にし、あらゆる角度から鑑賞したいという欲求があることを裏付けています。これは喜ばしい回帰です」
同ギャラリーで成約した作品の一つが、サム・ギリアムによる希少なハードエッジ抽象絵画《Mycenaean Ode》(1965)で、販売価格は30万ドル。

今年のフェアでは、24のギャラリーが参加する共同ブースが過去最多となる12カ所設けられた。その好例が、会場2階に設置された、ウィーンのライアーとベルリンおよびミュンヘンを拠点とするクラウパ=トゥスカニー・ツァイドラーの共同ブースだ。両ギャラリーとも複数の作品を販売したという。
アマデオ・クラウパ=トゥスカニーは、「著名なコレクションに収蔵してもらいたいと考えていた作品を数多く販売できたので、とても満足しています」と語り、販売先はいずれもヨーロッパのコレクションだったと明かした。一方、エマニュエル・ライアーは、アメリカのコレクターにも作品を販売したと付け加えた。
共同ブースでは、両ギャラリーが扱う歴史的作品と現代作品を組み合わせて展示していた。その一つが、奇妙な形の松葉杖のように使用することで、人の動き方を変化させるフランツ・ヴェストの彫刻作品《Passstück》(1983/1984)だ。その隣には、アンナ・ウッデンベルグの《White Noise (Soft Skills)》(2026)が展示されていた。オフィス用の人間工学に基づいた家具や器具を未来的に再解釈した構造物によって、顔のない等身大のマネキンの身体がねじ曲げられた彫刻作品だ。
「私たちにとって重要なのは、自分たち自身がワクワクし続けることだけでなく、ほかの人々にも刺激を与え、新たな問いを投げかけることです」とライアーは語る。「今は、自分たちがどのように活動し、何をどう提示し、どのように協力関係を築くのかについて、非常に柔軟な姿勢を持つ必要があります」
アートアドバイザリー会社、NGパートナーズの共同創業者であるニコラ・ナハブも、アート市場が引き続き「調整期」にある中、ギャラリーが協働のための創造的な方法を模索する動きが広がっていると指摘する。その背景には、特にウルトラ・コンテンポラリー作品の価格に対する懐疑的な見方があるという。
「今日のコレクターは、以前ほど価格を信用しておらず、提示された価格をそのまま受け入れることもありません」とナハブは語り、こう続ける。
「こうした信頼の欠如によって、コレクターは提供された情報に疑問を抱き、吟味するようになっています。購入を決断する前に、安心できるだけの裏付けや調査、そして作家の制作活動と市場における位置づけについての包括的な理解を求めています。意思決定にこれほど時間がかかるのは、そのためです。翻って言えば、信頼関係さえ築かれていれば、コレクターにとって決断は容易なのです」
(翻訳:編集部)
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