学生デモでルーブル美術館が臨時休館。暴動広がるパリでアート・バーゼルは予定通り開催へ
フランスで大規模デモや破壊行為が起きる中、10月19日にパリのルーブル美術館を学生が封鎖し、開館できない事態となった。アート・バーゼル・パリの開幕を控え、治安への懸念に同フェアや大手ギャラリー、パリの文化施設がどう対応しているかをまとめた。

10月19日、芸術・文化分野の学生ら約50人が、ルーブル美術館のメインエントランスがあるガラスのピラミッドを封鎖する抗議活動を行い、美術館が臨時休館になったと仏ル・フィガロ紙などが報じた。ちょうど、同美術館で大胆な宝飾品窃盗事件が発生してから1年目というタイミングだった。
パリをはじめフランス各地では、公立学校の教育環境改善や生活苦・物価高騰による社会の不平等に対する大規模な抗議運動が発生し、10月17日の土曜日には警察との衝突や暴動へと拡大。18日夜になってやや沈静化したものの破壊行為が続いた。
アート・バーゼル・パリは警備を強化
この状況に対し、アート・バーゼルは18日、来場者に向けて「アート・バーゼル・パリは予定通り開催される」こと、また「フェア会場の周囲を24時間体制でパトロールするため、追加の警備員を配置した」ことを伝える声明を発表した。これは、フェア側が「すでに実施している包括的な対策」を補完するもので、「全ての来場者、出展者、スタッフの安全、およびアート作品の保全」を確保するための措置だ。
具体的には、会場となるグラン・パレ周辺への車両突入防止用バリケードの設置や、来場者に対する「徹底したセキュリティチェック手順」などが含まれる。さらに、必要に応じてパリ警察と連携し、民間警備会社とも協力して警備にあたっているとしている。なお、同フェアは10月23日〜25日に行われる(VIPデーは10月21日・22日)。
このような状況下、週末を通して一部の道路や地下鉄駅が閉鎖され、警察とデモ隊の衝突によって市内の移動が困難を極める中、多くのアート関連のオープニングイベントが予定通り開催された。参加者の中には、路上のバリケードが燃える煙や催涙ガスに巻き込まれたという人もいた。複数の情報筋によると、今週パリを訪れる人々には移動手段の車をチャーターする動きが見られるほか、ホテル予約をキャンセルするケースも出ている。
ルーブル美術館以外にも、一部の文化施設で一時的な閉鎖が行われた。ルーブル美術館とグラン・パレの間に位置するジュ・ド・ポーム美術館では、「予防的措置」として18日に予定されていたスタン・ダグラスの展覧会『Parallax(視差)』の開幕を中止(その後20日開始となった)。同美術館の広報担当者がUS版ARTnewsに語ったところによると、隣接するチュイルリー庭園も同じ理由で閉鎖されたという。ハウザー&ワースも担当者によるメールで、「来場者やスタッフの安全を守る予防的措置」のため、17日はパリ8区にあるギャラリーを閉鎖することを伝えていた。
「バリケードを超えて」
一方、マレ地区にあるマリアン・グッドマン・ギャラリーでは、ブルース・ナウマンとタシタ・ディーンによる新作映像作品の展覧会が19日に開幕。催涙ガスを吸い込みながらも「バリケードを越えて」なんとか会場にたどり着き、オープニングディナーに集まった参加者に、ディーンは感謝の言葉を述べていた。その夜遅く、略奪者の男たちが腕に商品を抱えて店から走り出てくる様子を、ギャラリーのあるタンプル通りでUS版ARTnewsのスタッフが目撃している。
当局の発表によると、フランス各地の都市で50万人以上が参加した抗議活動の最中およびその後に、数千もの店舗が略奪の被害に遭ったとされる。リモージュにある19世紀の市庁舎がほぼ全焼するなど、公共施設への放火も相次ぎ、2400人近くが逮捕された。
これを受け、ローラン・ヌニェス内相が一部の地域で警察の「警備態勢が機能しなかった」ことを認め、辞意を表明。しかし、エマニュエル・マクロン大統領は辞任の申し出を退けるとともに、略奪者に対して迅速に厳正な措置を講じることや、新たな治安維持の「運用手法」を検討すると表明。19日にはセバスチャン・ルコルニュ首相が各県の知事に対し、店舗や財産の保護を目的とした「夜間外出禁止令」の発令を要請した。
幸い、ルーブル美術館に被害はなかったと報じられている。抗議者たちはガラスのピラミッド内に入ることはできず、同美術館のウェブサイトには「学生デモのため、現在美術館は閉館しています」と記載されていた。AFP通信によると、美術館で抗議活動を行った参加者(ルーブル学院など美術学校の学生が含まれる)は、ここ数週間、警察がデモ隊に暴力的な対応をしていることに憤りを示し、公立学校の環境改善や生活費高騰への対策を求めている学生や他の抗議者に連帯の意を示したいと話した。
火災と催涙ガス、そしてシャンパン
18日夜、オルセー美術館で開催されたジェニー・ホルツァーの展覧会『J’ai Vue(私は見た)』のオープニングでは、招待客たちが自分の遭遇した抗議活動について、また、世界各地の紛争を真正面から取り上げたホルツァーの展覧会がいかに時宜を得たものであるかを語り合っていた。なお、ホルツァー自身は体調不良のため、会場に姿を見せなかった。
マルチメディアアーティストのケンダル・ゲティは、第9区のブルー通りにあるギャラリー、ITEM IDEMで10月14日に始まった新作個展、「L’Identification Avec L’Autre(他者との同一化)」の設営作業は、数週間にわたる学生デモの影響で困難を極めたと語った。現在、彼女はヴェルサイユ宮殿の鏡の間に着想を得て制作した鏡による大規模な作品が、略奪者の被害を受けないか懸念している。
ゲティの展示を設営・企画したショーナ・トーレスは、17日に催涙ガスに巻き込まれるアクシデントがあったものの、前向きな姿勢を保とうと努めているとしてこう述べた。
「私たちは歴史の只中に生きています。そこには時に、火災や催涙ガス、そしてシャンパンの匂いが漂うこともあります。ですが、私はここにいられることを、ただ嬉しく思います」(翻訳:石井佳子)
from ARTnews