バティア&イダン・オファー(Batia and Idan Ofer)

拠点:イギリス・ロンドン
職業:海運業、フィランソロピスト
収集分野:近現代アート

イダン・オファーの父親である海運王サミー・オファーは、生前イスラエル随一の富豪と呼ばれていた。2011年に彼が亡くなったとき、その遺産分けはシンプルな方法で行われた。会計士はサミーの事業資産を2つに分け、それを記した書面を入れた封筒を、帽子の中から選ぶように息子のイダンとイアルに指示。彼らが選んだ封筒の中身によって、受け継ぐ事業部門が決まる。2人は記者団に対し、この分け方に依存はないと明言した。2017年にイダンは、「兄と私の間に波風が立つことはありませんでした」とブルームバーグに語っている。「彼は幸せに暮らしていますし、私もそうです」。米フォーブス誌は、2022年9月時点のイダンの純資産を約99億ドル(約1兆4000億円)と推定している。

イダンは100隻以上の船を運航する海運会社イースタン・パシフィック・シッピングのオーナーで、化学、エネルギー、海運のコングロマリットであるイスラエル・コーポレーションの株式の過半数を所有していた。イスラエル・コーポレーションが電力、運輸、海運部門をケノン・ホールディングスに分離したのちも、大株主の地位を保っている。2013年に彼は、イギリスのロンドン・ビジネス・スクールに4200万ドル(約60億円)を寄付。4年後の2017年9月、同大学はイダンの亡き父に敬意を表し、サミー・オファー・センターを開設した。

バティア・オファーは、イギリスの文化・教育面で積極的な慈善活動を行っている。ロンドン王立芸術アカデミーの理事や、サザビーズの国際評議会委員を務める彼女は、ヴィクトリア&アルバート博物館への支援も行っている。さらにオファー夫妻は、マサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード・ケネディ・スクールにHKSサミー・オファー大学院フェローシップ基金を設立。これは、同校に通うイスラエルとパレスチナの学生に、奨学金プログラムを提供するものだ。なお、バティアはHKSの執行委員会のメンバーでもある。

バティアはまた、メイク・ア・ウィッシュ財団の主要な後援者として、資金集めのために国際的なアートコミュニティを活用するアート・オブ・ウィッシュを設立した。同団体は毎年オークションを開催し、2017年以来、850万ポンド(約14億円)以上の寄付金を集めている。2021年のオークションには、同団体初のコレクターズアイテムであるNFTが出品された。さらに、アート・オブ・ウィッシュは、トレイシー・エミン、アニッシュ・カプーア、ジェニー・サヴィル、故ヴァージル・アブローなど、現代を代表するアーティストとのコラボレーションも行ってきた。

オファー夫妻は、イダン&バティア・オファー・ファミリー財団を通じ、アメリカ、イギリス、イスラエルにおける健康・教育・文化分野の問題解決にも尽力している。その目標は、「単にお金を寄付するだけでなく、アートを通じて意味のある変化を生み、世界的なつながりをもたらすこと」だと、パティアはUS版ARTnewsのメール取材に答えている。

イダンとバティアは、近現代アートを中心にコレクションをしている。サミー・オファーから相続したフィンセント・ファン・ゴッホやパブロ・ピカソなどに加え、ルイーズ・ブルジョワ、リチャード・プリンス、デイヴィッド・ハモンズ、ジグマー・ポルケ、ゲオルク・バゼリッツ、トーマス・ストルース、マンディ・エル=サイエグ、フィリップ・ガストンなどの作品を所有。グストンの作品《Remorse》(1969)は、2022年にサザビーズのオークションで、780万ドル(約11億円)で落札されている。この作品は、ガストンが1970年にマールボロ・ギャラリーで発表したKKKシリーズのオリジナル作品28点のうちの1点だ。


注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2022年版トップ200コレクターズが発表された2022年10月時点の為替レートによる。
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