人類最初の文字は6000年前のメソポタミアの印章が起源? 最新研究で新説
およそ6000年以上前のメソポタミアで商売に使われた印章が文字の誕生に繋がった可能性があると、11月5日にイタリアの研究チームが発表した。
人類最初の文字と言われる楔形文字が誕生するはるか昔、約6000年前のメソポタミアの印章の図柄が文字の誕生に繋がった可能性があると、イタリア・ボローニャ大学の3人の研究者がAntiquity誌の最新号で発表した。Live Scienceが伝えた。
世界最初の文字は、紀元前3350年から3000年の間に、現在のイラクにあるウルク市でシュメール人が考案した原楔形文字だ。原楔形文字は絵文字で構成され、その後楔形文字の3000年にわたる歴史の中で抽象的な記号へと進化していった。
新しい研究によると、紀元前4400年から3400年の間、文字が生まれるおよそ1000年前からメソポタミアの商人たちは、商品が入った粘土製の容器に、その中身や量、行き先などを記した印章を押していたという。印章の図像記号は石の円筒に浮き彫りにされており、粘土製の容器がまだ乾かない間に円筒を転がして模様が付けられていた。これまで数百もの図像記号が見つかっているが、その多くはいまだ解読されていない。南西アジアで長年使用されてきた図像記号の精緻化は、楔形文字の原型の発展を促し、いくつかの記号のモデルとなった可能性があると論文では述べられている。
ボローニャ大学古典文献学・イタリア学部の研究員で共同執筆者のキャサリン・ケリーは「私たちが論文で提示している重要な繋がりは、次のようなものです。これらは文字が誕生する以前から存在しており、同様の方法で使用され、文字の発明に引き継がれる何らかの意味上の関連性を持っている、と明確に言える最初の具体的な一連の印なのです」と説明する。これらの印章は、文字が生まれた後も、楔形文字の原型となる可能性のある他の技術とともに使用され続けていた。
例えば、原楔形文字の「ZATU639」という名が付けられた棒と網型の記号は、文字が使われるようになる前の粘土板に、家畜(および家畜に関連する文脈)とともに繰り返し登場している。印章では人々や動物が同じような方角に向かって移動しており、商品の輸送を追跡するために使われていたのではないかと考えられている。
また、この論文で、印章の図像記号と原楔形文字の両方に、容器や縁飾りのついた布が網に盛られたイメージがしばしば描かれていることが指摘されている。これらは交易品を意味しており、楔形文字の粘土板には数字も記入されていた。これについて研究者は、「文字以前の会計記録と文字の萌芽期の記録との移行を示す文書形式であり、印章から記号への変遷の軌跡を示唆している」と結論づけた。研究者は、この成果が学者たちがより多くの原楔形文字の記号を解読するのに役立つとともに、印章のモチーフの意味を解明する手掛かりにもなると期待している。
だがこの研究について、ドイツのゲッティンゲン大学で楔形文字を研究する人類学者ゴードン・ウィテカーは「興味深く示唆に富む」と評しながらも円筒印章のモチーフを「文字の発明の刺激」と結論づけるのは時期尚早かもしれないと警告した。彼はLive Scienceの取材に対して、「印章と楔形文字の原型の両方に同じアイテムが描かれていると思われる例はいくつかありますが、それを結びつける明白な因果関係は見られません」と話した。