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1000円で買った胸像に約5億円の鑑定額! スコットランドの港町に「恵の雨」

スコットランドで物置小屋のドアストッパー代わりに使われていた胸像が、250万ポンド(約4億9000万円)を超える値段で売却される可能性が出てきた。1930年に購入されたときの代金は、日本円にして1000円足らずだったという。

26年前まで物置小屋のドアストッパーだった18世紀の大理石彫刻。Photo: Courtesy, The Highland Council

スコットランド北東部の港町インバーゴードンで、26年前に見つかった大理石の胸像の売却が承認された。発見されたとき、18世紀の政治家ジョン・ゴードン卿の胸像は、物置小屋でドアストッパーとして使われていた。

胸像は1728年にフランス人彫刻家のエドメ・ブーシャルドンが制作したもので、同地の裁判所からの許可を受けて自治体が売却を承認。インバーゴードンの財政にとっては恵みの雨になるかもしれない。

昨年、地元自治体の依頼で胸像の鑑定をしたサザビーズは、同社の仲介による個人売買では250万ポンド(直近の為替レートで約4億9000万円、以下同)以上の値がつく可能性があるとしている。1930年にインバーゴードンがこの胸像を購入したとき、代金はわずか5ポンド(約980円)だった。

もともと展示用に購入されたこの大理石彫刻は、何らかの理由で「不要となった他の議会関連の物品とともに」物置小屋に置かれることになった。それを偶然発見したのは、元インバーゴードン町議会議員で、現在はより広域の自治体であるハイランド地区で議員を務めるマクシーン・スミスだ。スミスは昨年10月、英ガーディアン紙の取材に、所在が分からなくなった儀式用ローブを物置に探しに行って胸像を見つけたと答えている。

「ローブも見つかりましたが、ドアを開けている白い大理石の彫刻も目に留まりました。捨てられていてもおかしくなかったと思います」

USAトゥデイの記事によると、胸像の売却承認に至るまでには数々の手続きを経なければならなかったという。昨年10月に鑑定が行われた後、インバーゴードンの基金は売却によって普通なら得られない収入が期待できると主張。前出のスミスはガーディアン紙にこう語っている。

「正直なところ、(ハイランド地方最大の都市)インヴァネスのアーカイブセンターに置いておいても誰も得をしません。でも、安全に保管でき、保険料を払える場所はそこしかありません。インバーゴードンは困窮地域を抱えていますが、そのために投入する資金がないのです」

売却は、テイン・シェリフ裁判所の許可を得た後、8週間にわたる公開協議が行われ、最終的に地元自治体の委員会によって承認された。同委員会は、胸像のレプリカを作り、地元住民や観光客用の展示ができるとしている。実際、サザビーズの鑑定時には、100万ドル(約1億5500万円)を支払ったうえで博物館並みのレプリカを提供すると申し出た購入希望者もいたという。

しかし、この売却計画には反対の声も上がっている。その1人、美術史家のベンダー・グロブナーはBBCラジオ・スコットランドにこう主張した。

「この胸像は、まったくお金をかけずにハイランド地域の議会に運良く転がり込みました。しかし、彼らはスコットランド以外の場所にいる誰かに大金で売ることしか考えていないようです。なぜ、インヴァネス博物館や、スコットランド美術館、スコットランド博物館への貸し出しをしないのでしょう」(翻訳:石井佳子)

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