17分間の激戦を経て、モネ《睡蓮》が約101億円で落札! 女性シュルレアリスト作品も大健闘
サザビーズ・ニューヨークによる秋の大オークション、近現代美術のイブニングセールが11月18日に開催された。セールを象徴する作品には活発な入札が行われ、クロード・モネの《睡蓮》(1914-1917)が予想落札価格を上回る6550万ドル(約101億6000万円)で落札された。
サザビーズ・ニューヨークで11月18日、この秋を代表する2つのイブニングオークションが開催された。最初のオークションは、美容業界で財を成し2024年に死去したシデル・ミラーのコレクションが出品された「A Legacy of Beauty: The Collection of Sydell Miller Evening Auction」で、定刻の午後6時にスタートした。25点中9点が大白熱の競りとなり、その後のセールの開始が1時間遅れるほどの盛り上がりを見せた。トータル売り上げは手数料込みで約2億1600万ドル(約334億円)だった。
中でも、最も長い17分間競ったのは、今回の目玉であるクロード・モネの《睡蓮》(1914-1917)だった。この作品には、同社により売り手に金額を保証する社内保証と、取り消し不能入札の両方が付けられていた。会場ではサザビーズのオークション部門トップのスコット・ニイチエル、副会長のサイモン・ショー、アジア地域副会長のジェン・ファの3人が電話入札者の代理となり34件の入札合戦が行われた。その結果、ファの顧客が予想落札額6000万ドル(約93億円)のところ5900万ドル(約91億5000万円)、手数料込み6550万ドル(約101億6000万円)で競り落とした。熱戦が終わると、オークショニアは「私たちは(《睡蓮》を諦めて)前に進まなければなりません。ロットはこれだけではありませんよ」と会場の笑いを誘った。
次に高額だったのは、パブロ・ピカソの油彩《La Statuaire》(1925)で、予想落札価格3000万ドル(約46億5000万円)のところ、手数料込みで2480万ドル(約38億4600万円)だった。前述のジェン・ファと会場内の入札者による入札合戦があったものの、最終的にサザビーズのアメリカ地域顧客戦略責任者であるビクトリア・カンポフランコが担当した入札者が勝ち取った。3番目に高額だったのは、ヴァシリー・カンディンスキーの油彩《White Oval》(1921)で、予想落札価格が1500万ドルから2000万ドル(約23億~約31億円)に対し、2160万ドル(約33億5000万円)だった。
だがこの夜最も盛り上がった取引は、絵画ではなく、家具だった。フランソワ=グザヴィエ・ラランヌの金メッキのブロンズとガラスで出来たテーブル《Herd of Elephants in the Trees》(2001)は、サザビーズの執行副社長兼アメリカ地域会長リサ・デニソン、印象派・近代美術部門の委員長ヘレン・ニューマン、20世紀デザイン部門の委員長兼世界統括責任者であるジョディ・ポラック、そして印象派・近代美術部門の上級専門家サイモン・ストックの代理入札によって9分間、20件以上に渡る争いが繰り広げられた。結果、予想落札価格400万ドルから600万ドル(約6億~約9億円)を大きく上回る1160万ドル(約18億円)で落札され、その瞬間には会場から拍手が起こった。
そのほか、アンリ・マティスの《Jeune fille en robe rose》「(バラ色のドレスの若い女性)」が予想落札価格のほぼ2倍となる970万ドル(約15億円)、マーク・ロスコの無題の絵画は、高額の予想落札価格が300万ドル(約4億6500万円)のところ510万ドル(約8億円)で落札された。また、このセールの最初のロットを飾ったエドガー・ドガのブロンズ彫刻《Grande arabesque, troisième temps》は、高額の予想落札価格60万ドル(約9300万円)を上回る170万ドル(約2億6000万円)で取引された。
レオノーラ・キャリントンの彫刻が約15億円
次に行われたセール「Modern Evening Auction」は、午後7時の開始予定時刻から大幅に遅れて開催されたものの、それほど大きな盛り上がりは見られなかった。40点が出品されたうち7点が不落札、2点が取り下げられ、合わせて31点が9290万ドル(約144億円)で落札された。
最高額だったのは、アルベルト・ジャコメッティの胸像《Buste(Tête tranchante)(Diego)》で、予想落札価格が1000万ドルから1500万ドル(約15億5000~23億2500万円)のところ1330万ドル(約20億6000万円)で落札された。これは、同社のスペシャリスト、バメ・フィエロ・マーチが代理入札したもので、その売却益はハリー・F・グッゲンハイム財団に寄付される。
それに続いて、ティファニー・スタジオの「ダナー記念窓」が、500万ドルから700万ドル(約7憶7000~約10億8500万円)の予想落札額に対して、1250万ドル(約19億4000万円)で落札された。高さ約5メートルのステンドグラスは、アメリカの実業家アラン・ジェリーのコレクションだったものだ。6分半以上の競り合いの末、サザビーズのサイエンス&ポピュラーカルチャー部門のグローバルヘッドであるカサンドラ・ハットンが代理で競り落とした。この結果は、2018年のクリスティーズのデザインセールで落札された「Pond Lily」ランプの340万ドル(現在の為替で約5億3000万円)を抜き、ティファニー・スタジオによる作品のオークション最高額となった。
また同セールでは、女性シュルレアリストへの関心の高まりもあり、レオノーラ・キャリントン(Leonora Carrington)が1951年に完成させた約2メートルの彫刻作品《ル・グランダム(The Cat Woman)》をめぐって活発な競り合いが行われた。保証とキャンセル不可の条件が付けられた本作だったが、最低見積額の500万ドル(約7億7000万円)をはるかに上回る980万ドル(約15億円)で落札され、手数料込みの最終価格は1140万ドル(約17億6000万円)となった。
「キャットウーマン」の愛称を持つこの作品を手に入れたのは、ラテンアメリカ美術のコレクターであるエドゥアルド・コスタンティーニ。彼は最近、レメディオス・ヴァロやフリーダ・カーロなど、シュルレアリスム運動に関わった作家の代表的な作品を記録的な価格で落札している。コスタンティーニの電話入札を担当したのは、サザビーズのラテンアメリカ美術部門の責任者、アンナ・デ・スタシだった。
コンスタンティーニはまた、今年5月に開催されたサザビーズのイブニングセールでキャリントンの《レ・ディストラクション・ド・ダゴベール》も2850万ドルで落札している。彼は自身が所有するアルゼンチンの美術館、ブエノスアイレス・ラテンアメリカ美術館(MALBA)で、他のシュールレアリスムの作品を展示しており、カーリントンの絵画作品も、近いうちに同美術館で展示される可能性が高いと考えられる。
コンスタンティーニはこれら二つのキャリントン作品を取得したことについて、「鋭い洞察力を持つコレクターからこれら2点の素晴らしい作品を入手する機会を得られたことに、心から感激しています」という声明を発表し、こう続けている。
「われわれMALBAは今年、レオノーラ・キャリントンによる2つの傑作をコレクションに収蔵できるというまたとない幸運に恵まれました。《ル・グランダム》と《レ・ディストラクション・ド・ダゴベール》は、レメディオス・ヴァロやフリーダ・カーロといったラテンアメリカのシュルレアリスム運動を代表する作家による作品と並ぶのにふさわしい完璧な作品です」
また、この夜の4番目にして最後のロットとなったキャリントンの絵画《Temple of the Word》は、サザビーズの会長兼モダン&コンテンポラリー・アート責任者であるアレックス・ブランジックと会場の入札者との間で競り合われ、300万ドル(約4億6000万円)から500万ドル(約7億7000万円)の予想落札価格に対して、ハンマー価格380万ドル(約5億8800万円)、手数料込み456万ドル(約7億円)で落札された。
コンスタンティーニが落札したキャリントン作品以外にも、女性シュルレアリストたちの作品は好成績を残した。ヴァロの《Los caminos tortuosos》は、120万ドル(約1億8000万円)から180万ドル(2億7800万円)の予想落札価格を超える200万ドル(約3億円)で落札された。さらにレオノール・フィニの《Les Stylites(Les Stylists)》は、40万ドル(約6200万円)から60万ドル(約9300万円)の予想落札価格に対して、72万ドル(約1億1000万円)で決着した。
一方、1200万ドル(約18億6000万円)から1800万ドル(約27億9000万円)というオークション最高額の予想価格が付けられたアンリ・マティスの《若い女性の裸身》(1921-22)は、サザビーズの保証付きであったが、落札には至らなかった。このように、高額な予想価格を下回ったり、買い手がつかなかった作品が目立ったオークションの中で、唯一明るい話題を提供したのが女性シュルレアリストたちの作品だったと言える。(翻訳:編集部)
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