ユネスコがレバノン文化遺産の「最高レベル」の保護を約束。「イスラエル軍から全力で守る」
レバノンに拠点を置くイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者を暗殺したのちに開始されたイスラエルのレバノン侵攻。イスラエルは1カ月以上爆撃を続けているなか、レバノンの文化遺産が破壊されることを危惧したユネスコは、国内34の史跡の保護を強化する緊急措置を講じた。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)は11月18日、パリで開催された緊急会議「Protection of Cultural Property in the Event of Armed Conflict」でレバノンにある34の文化遺産の保護強化を決定した。この決定がなされる少し前にも、イスラエルはレバノン東部のバールベック地区にある古代ローマ遺跡の近くを爆撃しており、事務局長を務めるオードリー・アズレは次のような声明を発表している。
「ユネスコとレバノンは長年にわたり深い協力関係を築いてきました。同国の類まれな遺産の保護に必要なあらゆる専門知識と支援を提供するべく、全力を尽くします」
この数週間でレバノンの文化当局は、国内の歴史的遺産、特に世界遺産に登録されているバールベックのローマ神殿跡と、ティールにある都市遺跡ティルスなどを保護するよう国際社会に呼びかけてきた。これ以外にも、ユネスコが保護強化を指定した文化財には、紛争により閉鎖されたベイルートのニコラス・イブラヒム・スルソック博物館、ベイルート国立博物館、そして西ベカーにあるマジェル・アンジャール神殿などが含まれる。
ユネスコは声明を通じて、9月にイスラエルがイスラム教シーア派組織ヒズボラに対する軍事作戦を激化させて以来、レバノンの地方および中央の文化当局と緊密に連絡を取っており、「必要な緊急措置の策定、博物館に収蔵されている品々の目録作成、安置への作品の移動といった支援をレバノンに申し出ています」と明かした。
一方、レバノンの国営通信社が11月16日に報じたところでは、イスラエルは都市遺跡タイアを再び空爆したという。タイアは世界でも最も保存状態のいいローマ時代の遺跡の一つがある歴史地区で、広大な馬術競技場などが現存している。
これ以外にもイスラエルは、バールベックの都市に対する空爆を10月末に開始し、近隣に住む数千人の市民は避難を余儀なくされた。この空爆により、ローマ時代に建てられた3つの神殿が危機に瀕しており、そのうちのひとつ、ユピテル神殿の円柱の背後に大きな煙柱が立ち上る様子がソーシャルメディアや海外の報道機関を通じて広く拡散された。ユピテル、ヴィーナス、マーキュリーといったローマ神話の神々に捧げられた1万1000年前の神殿は、1984年にユネスコ世界遺産に登録されている。
バールベックで危険にさらされている考古学的遺産はこれだけではない。レバノンのNGO団体「Biladi」を率いる考古学者のジョアン・バジャリーがアート・ニュースペーパーに語ったところによれば、西暦1243年に建てられたイスラム教の聖堂であるデュリスのクッバを構成する石の1つが崩落したという(建造物自体は11月7日現在もまだ残っている)。ほかにも、歴史ある旧市街に隣接する、フランス委任統治時代に作られた市壁とオスマン帝国時代に建てられた市壁が、空爆によって深刻な被害を受けた。
ユネスコは、今回強化対象となった34の文化財に対して最高レベルの保護を保証しており、「これらの条項に違反することは、1954年に作成されたハーグ条約の『重大な違反』に該当し、起訴につながる可能性がある」と警告している。
イスラエル軍がヒズボラの指導者を9月末に暗殺して軍事作戦を激化して以来、少なくとも1600の同組織の拠点を攻撃したと発表。この日、ヒズボラのメンバーが使用しているとされる数百のポケベルがレバノン全土で遠隔操作により爆破された。レバノンの保健省によると、2023年10月以来、イスラエルによる同国全域での攻撃により、少なくとも3102人が死亡、1万3819人が負傷した。(翻訳:編集部)