ユリア・シュトーシェック(Julia Stoschek)
拠点:ドイツ・ベルリン、デュッセルドルフ
職業:自動車部品製造
収集分野:現代アート(主にタイムベースト・メディア:鑑賞が時間的に展開する媒体)
ユリア・シュトーシェックは、インスタレーション、写真、絵画、彫刻など約860点の現代アート作品を所有しているが、その中心は1960年代後半から現在までのビデオなど、タイムベースト・メディアの作品だ。デュッセルドルフとベルリンにある彼女の展示スペースでは、エド・アトキンス、リンダ・ベングリス、ジョーン・ジョナス、ピピロッティ・リスト、ビル・ヴィオラなどの作品が紹介されている。彼女はBMWアートガイド誌にこう語っている。「私は生来、動くイメージに惹かれるのです。常に変化し、決して静止することのないもの。それは、現代を特徴づけるものだと考えています」
2020年5月、コロナ禍によるロックダウンが広まる中、シュトーシェックは自身が所有する60の映像作品をオンライン上で公開し、誰もが閲覧できるようにした。そのことについて彼女は、US版ARTnewsにこう語っている。「映画やビデオは、それらが生まれたときから民主主義的な思想、そして幅広い人々が芸術に触れられるようなメディアを通して発展してきました。私のしたことはこの流れに沿ったものですし、理論的には無限に再現可能で、それゆえに唯一無二の芸術作品という概念を根底から覆すこのメディア自体の特性に根ざしたものでもあります」
彼女がコレクションしている作品は、設置する場所に手を入れなければならないものも多い。たとえば2015年に、モニカ・ボンヴィチーニによるミクストメディアのインスタレーション《Wallfuckin'》(1995)をデュッセルドルフの展示スペースに搬入する際には、エントランス部分を大きく改造する必要があった。
シュトーシェックは以前、ブルアン・アートインフォ誌に初めて購入する人へのアドバイスについて聞かれ、「直感に従うこと、そして自分らしくあること」と答えた。また、1人のアーティストの作品を深掘りすることでも知られる彼女は、収集はしばしば待ちのゲームであるとも語っている。中でも、フランシス・アリスの「リハーサル」シリーズの1999年から2001年のビデオ・インスタレーションは特に入手が困難だったという。このシリーズは、古代ギリシャ神話のシジフォス(*1)に着想を得ており、フォルクスワーゲンに険しい未舗装道路を登らせるなど、不可能への挑戦を描いている。彼女はUS版ARTnewsにこう語った。「既に持ち主がいた作品を手に入れるまで、7年待たなければならなかったのです。その過程はまるでシジフォスのようでした」
*1 ギリシャ神話のコリントスの創建者。ゼウスの怒りにふれ、死後、転がり落ちる大きな石を山頂まで永遠に押し上げ続ける罰を受けた。大石はあと一息のところで必ず転げ落ちたという。
2022年、ニューヨーク・タイムズ紙がシュトーシェックの曽祖父が第2次世界大戦中にナチス党員だったことを報じ、大きな話題となった。彼女はその報道の直後、独シュピーゲル誌の取材に応じ、一族の財産がナチスによるものである可能性を否定した。一方、オンラインアートメディアのハイパーアレジックによると、シュピーゲルの記事を受けて、アーティストのヒト・シュタイエルがシュトーシェックのコレクションから作品を買い戻したという。