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  • 2023.08.21

有色人種の脳標本を「非倫理的な方法」で収集。スミソニアン国立自然史博物館が過去の慣行を陳謝

スミソニアン国立自然史博物館が所蔵する人間の脳の標本のほとんどが、同意なしに収集された有色人種のものであることが、ワシントン・ポスト紙の調査報道で明らかになった。

スミソニアン国立自然史博物館の外観。Photo: Aurora Samperio/NurPhoto via Getty Images

先住民や黒人などの脳標本を同意なく収集

ワシントン・ポスト紙の記者、ニコール・ダンカとクレア・ヒーリーによると、「標本の大半は本人やその家族の同意を得ずに収集されたもので、研究者たちは、死亡した入院患者や貧しい人々など、身元確認や埋葬のために遺体を引き取る親族がいないのをいいことに標本を収集した」と見られる。博物館の記録では、自らの意思または家族の同意のもとに提供された脳標本は4体しかなく、「収集家や人類学者、科学者らが埋葬地や墓を盗掘したケースもある」という。

同博物館が所蔵する人体標本について、1年にわたる調査を経て書かれた記事の中で、キーパーソンとして取り上げられているのがアレス・ハードリチカという人物だ。同博物館の前身であるアメリカ国立博物館(U.S. National Museum)の形質人類学部門の初代キュレーターとして1903年に就任したハードリチカは、アメリカ優生学協会の長年のメンバーでもあった。彼は、現在では否定されている人種ごとの解剖学的違いに関する理論の普及と発展のために、脳を含む人体標本を収集していた。

調査の結果、博物館に収蔵されている255体の脳標本のうちほとんどが、有色人種が死亡した時に摘出されたものであることが分かった。その中にはアメリカで死亡した57人の黒人も含まれており、多くは非倫理的な方法で入手されていた。コレクションにはまた、「1908年から1912年にかけて遺体の引き取り手がいなかった」23人のフィリピン人と49人の貧しいドイツ人の脳標本も含まれている。

これらの脳は、「骨などを含む少なくとも3万700体の人体標本」からなる博物館のコレクションの一部だという。世界最大級のこのコレクションに、何人分の遺体が含まれているのかは分かっていない。

先住民の墓所を守り、研究機関などから子孫への遺体の返還を推進するため1990年に制定されたアメリカ先住民墳墓保護返還法によって、スミソニアン国立自然史博物館は、アメリカ本土とアラスカ、ハワイの先住民の遺体から採られた標本については子孫に所蔵の事実を伝える義務を負っている。ワシントン・ポスト紙の記者たちは、1933年にシアトルの病院で死亡したアラスカ先住民、メアリー・サラの親族を探し出して取材を行った。それによると、サラの死後に病院の医師が彼女の脳を採取し、国立自然史博物館に郵送していたが、親族はそのことを知らなかった。

同記事は、「少なくとも268体の脳標本」のうち同博物館が子孫や当該文化の継承者に返還したのは4体だけだとしている。

非倫理的な収集が行われた理由は「人種差別的なもの」

スミソニアン協会のロニー・G・バンチ3世長官は、今年4月に出した声明の中で、同博物館が所蔵する人体標本の取り扱いに関するタスクフォースを設立すると発表し、過去の非倫理的行為について謝罪した。また、ワシントン・ポスト紙の記者たちが調査を進めていた頃にバンチが出した声明にはこう記されている。

「博物館の分野で過去に標準的とされていた慣行は、今では許されません。私たちのかつての行いが、多くの人々やその家族、コミュニティに苦痛を与えたことを認め謝罪します。この新たな取り組みを契機に、学術的に優れているだけではなく、最高の倫理基準を満たした方法で最先端の研究を行えるよう、有意義な対話が生まれることを期待しています」

さらにバンチは、ワシントン・ポスト紙にこう語った。

「私は、こうした行為のほとんどが人種差別的な態度に基づいていたと理解しています。白人の脳の優位性を示す目的で有色人種の人々の脳が集められていました。これは、許されることではありません。私は歴史家として、脳などすべての人体標本を可能な限り返還し、最善の方法で取り扱うことが重要だと考えています」

バンチは2019年に長官に就任するまで、スミソニアン協会が所蔵する脳のコレクションについては「まったく」知らなかったとワシントン・ポスト紙の記者に語っている。関係者の同意なく持ち出された人骨やその他の物品の倫理的返還に関する正式な方針が採択された後の2022年になって、初めてその存在を知ったという。

スミソニアン協会は複数の研究施設と21のミュージアムのほか、国立動物園を擁している。その中で最も人気があるのが国立自然史博物館で、人体標本の大半が所蔵されているのも同博物館だ。スミソニアン協会が管轄するそのほかの博物館で唯一、人体標本を所蔵している国立アメリカインディアン博物館は、現在454体を所蔵し、これまでに617体を返還したとワシントン・ポスト紙は伝えている。(翻訳:野澤朋代)

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