「美術の展覧会でロボットによる演劇上演は、極めて新しい取り組み」──やんツー【TERRADA ART AWARDファイナリスト・インタビュー】
現在、寺田倉庫G3-6Fで開催中の「TERRADA ART AWARD 2023」ファイナリスト展では、5人のファイナリストが新作を発表している。アワード受賞は彼らにとってどんな意味を持つのか。それぞれに、そこから得た気づきや新たな挑戦について話を聞いた。
──日本には様々なアートアワードがあると思いますが、「前例は、あなたが創る」というテーマを掲げるTERRADA ART AWARDに応募された理由を教えていただけますか?
森美術館で2022年に開催された「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」に出展した作品が、コロナ以降急速に発達した物流テクノロジーをテーマにした作品で、寺田倉庫はその作品をアップデートしたものを発表するにはうってつけの場所だと思ったので、応募することにしました。
──今回発表されている作品のテーマやコンセプトについて教えてください。
少し先の未来、非合理的な営みであるが故に人間がやらなくなってしまった「美術」を、AIが搭載された自律的に振る舞う装置たちが発見し、忘れ去られてしまった美術を作品とともに発見したインストラクションシートを解釈した上で実演し、美術を理解しようと試みる、という設定の演劇作品です。ということで、美術の空虚さであったり、美術そのものについての制度批判がコンセプトとなっています。
──今回のアワードへの応募を通じて、挑戦したかったことを教えてください。またその挑戦は、ご自身のアーティストとしての成長・ブレイクスルー・キャリアパスにおいて、なぜ重要だったのでしょうか?
挑戦したことは、装置による本格的な演劇作品をつくることと、美術の展覧会で演劇を上演することです。 人間の俳優は登場せず、人間の身体的造形すらもち合わせていない、自律稼働する装置がリアルタイムに俳優として演じる演劇作品は極めて新しい取り組みと言えます。 また、演出を務めてくれた和田ながらにはぼくの過去作のインスタレーションの技術仕様や、今回の作品コンセプトも盛り込んだインストラクションシートを演劇の戯曲として読んでもらい、 演出を手掛けてもらっています。特に、タイムベースメディアの美術作品を長期的に保存していくために重要なインストラクションシートを戯曲に見立てて演劇をつくるということも、これまであまり類をみない試みであり、演劇作品としても新しいことに取り組んでいます。
──作品を発表する上で空間は非常に重要な要素であると思いますが、その意味で、寺田倉庫のこの空間は、今回の挑戦においてどんなふうに作用しましたか?
かつて倉庫として実際に使わていた空間なので、この場所が倉庫であるということを演劇の設定にそのまま取り込んでいます。そういう意味では、非常にサイトスペシフィックな演劇作品になったと思いますし、場所の特性をうまく活かした作品プランを提案できたことが、今回ファイナリストまで残れた大きな要因だと考えています。
──今回発表される作品を実現していくにあたり、ご自身がもっとも達成感を得られたこと、成功したと思われることを教えてください。逆に、困難や今後の課題であると感じた点でも結構です。
この作品で一番成功したと感じる部分は、協働するコラボレーターの座組です。演出に和田ながら、 音響照明、更に打ち合わせ段階でドラマツルギー的に多くの示唆的な提案をしてくれた涌井智仁、そしてシステム・エンジニアリングに稲福孝信。作品プランの企画書段階では、装置が演劇をすることと、この3名の座組以外はほとんど何も決まっていないという状況でした。でも、限られた時間のなか、おのおのが役割をまっとうしてくれて今回の作品が実現できました。
困難に感じたことは、ロボティクスにおける空間認識システムと空間における振る舞いの実装です。これは稲福の担当部分で、2018年に初めてセグウェイを使ったインスタレーションを制作したときから継続して付きまとっているテクニカルな問題です。いくつかの方法で実装を試みていますが、未だに完璧な方法にたどり着けていません。今回の演劇作品でも、セグウェイは緊急時には手動操作に切替えられるようになっています。
──「前例のないことをやる」という行為/態度は、アーティストであり続ける上で、どれくらい重要で しょうか? 「前例のないことをやる」ために、日々、どんなことを訓練したり実践したりしていますか?
前提として、必ずしも前例のないことをやる必要はないと最近は考えています。「前例がないことをやる」「新しいことをやる」というのは、優れた美術作品制作の必須条件のように思われがちです。しかし、そのような「誰も踏んでない土地を踏む」ことや、ある種のフロンティア精神は競争の原理を駆動させ、ともすると他者を排除することに容易につながり、気づいたら暴力的な思想に転倒してしまう危険性があると考えます。
ぼくが作品のなかで用いるテクノロジー自体がその性質を大いにはらんでいるので、そのことには自覚的になり、常に自分自身を見張ってなくてはいけません。また、「前例のないことをやる」ことにとらわれすぎてしまうと身動きが取れなくなり、手が動かなくなってしまうということも起こりがちなので、新規性を意識しすぎないことが重要ではないでしょうか。
──今回の受賞を機に、さらに挑戦してみたいことや展望があれば教えてください。
今回の演劇作品を海外で上演し、観客の反応を見てみたいです。西洋由来の普遍的共通認識がある「美術」を題材にしているので、少なくとも欧米では当然受け入れられる作品になっていると思っていました。でも、寺瀬由紀さんとの対談で、ドメスティックで日本的な作品という印象をもたれていたようなので、実際のところどうなのか、欧米だけでなくさまざまな国や地域で上演してみたいです。