アリス・ウォルトン(Alice Walton)

拠点:アメリカ・テキサス州フォートワース
職業:遺産相続(Walmart)
収集分野:現代アート、アメリカ美術

アリス・ウォルトンが初めてアート作品を買ったのは10歳の頃、父親のサムが経営する雑貨店で、2ドルで売られていたピカソの《Blue Nude》の複製だった。サムはのちに世界最大のスーパーマーケットチェーン、ウォルマートを設立。アリスのアートへの愛が深まるにつれ、自由に使える資金も増えていった。たとえば、2004年のサザビーズのオークションで、彼女は1日に2000万ドル(約29億円)以上の美術品を電話参加で落札している。その日は、テキサス州フォートワースのウィル・ロジャース・コロシアムで行われた馬術大会の予選会に出場するため、オークション会場に行けなかったからだ。

2005年、彼女は19世紀のハドソン・リバー派の画家、アッシャー・B・デュランドの《Kindred Spirits》(1849)をニューヨーク公共図書館から3500万ドル(約51億円)で購入し、物議を醸した。この作品は現在、ウォルトンがアーカンソー州ベントンビルに設立したクリスタル・ブリッジズ美術館にあるが、それを問題視する人々は、彼女が莫大な富に物を言わせて経営難に陥っている文化施設から美術品を買い漁っていると非難する。英ガーディアン紙にも、否定的な論調の記事が掲載された。いわく、「アリス・ウォルトンはウォルマート同様、公正な慣行や競争を無視して美術品を集めている」。しかし彼女は、自身に向けられた批判をことごとくはねつけている。

2011年に開館したクリスタル・ブリッジズ美術館は、アメリカ中央部のアーカンソー州という文化施設に恵まれているとは言えない場所で、無料でアートに触れる機会を提供するウォルトンの慈善活動の一環だ。2022年にも彼女は、同美術館のインターンシップ・プログラムに、1000万ドル(約14億5000万円)の資金を提供している。

2017年、ウォルトンは全米の美術館でアメリカ美術の展覧会開催を支援する非営利財団、アート・ブリッジズを設立。2019年にはクリスティーズ・ニューヨークで、ロバート・ラウシェンバーグが1964年に制作したシルクスクリーン作品を8880万ドル(約129億円)という記録的な価格で落札したと報じられた。


注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2022年版トップ200コレクターズが発表された2022年10月時点の為替レートによる。