伝説のストラディバリウスがオークションに。予想最高落札価格は27億円、新記録に期待
アントニオ・ストラディバリが「黄金時代」に製作した「ヨアヒム・マ・ストラディバリウス」がサザビーズに出品される。最後の所有者である名ヴァイオリニスト、シホン・マの遺志により、売上は全て母校ニューイングランド音楽院の奨学金に充てられる予定だ。
かつて19世紀を代表するハンガリーのヴァイオリン奏者ヨーゼフ・ヨアヒムが所有し、その後、アメリカで活躍した著名ヴァイオリニストで教育者でもあったシホン・マが受け継いだストラディバリウス「ヨアヒム・マ・ストラディバリウス」が2025年2月、ニューイングランド音楽院(NEC)から委託を受け、サザビーズに出品されることがわかった。予想落札価格は1200万ドルから1800万ドル(約18億円〜約27億円)で、売上は全てNECの奨学金に充てられる予定。
このヴァイオリンは、アントニオ・ストラディバリが「黄金時代」にあたる1714年に製作したもので、マが2009年に亡くなるまで演奏し続けた。その後2016年に故人の意思を継ぎ、将来、母校NECの奨学金のために売却できるという条件で同校に寄贈された。NECへの寄贈後は、同院の上級学生数人によって演奏されてきた。今回の売却にあたり、NEC院長のアンドレア・カリンは、こう喜びを語る。
「私たちはこれにより、さらに多くの学生に投資し、彼らにチャンスを与える機会を得ることができます。NECに新たな才能を迎え入れ、次世代の音楽を支援し続けることができるのです。この楽器がこれまで、その音色を聞いた人、演奏した人すべてに影響を与えてきたように、今後もこの奨学金制度を通じて、その遺産をさらに多くの人々に広げることができることを嬉しく思います」
またサザビーズ会長兼アメリカ社長でグローバルビジネス開発責任者のマリ=クラウディア・ジメネスは、今回の出品について、「われわれが初めてこの楽器を目にしたとき、その存在感に圧倒されました」と語っている。卓越した芸術家や著名人が所有してきた美術品を数多く見てきたジメネスでさえ、これまで、ストラディバリウスを実際に見たり触ったことはなかったという。
「このヴァイオリンは300年以上前に作られたものですが、所有してきた伝説的な演奏家の影響で、クラシック音楽史に燦然と輝く楽器です。その長い歴史と世界に与えた影響について考えると、身震いする思いです」
サザビーズのプレスリリースによると、ヨアヒムは1879年、ブラームス本人による指揮のもと、ブラームスのヴァイオリン協奏曲ニ長調:作品77をこの楽器で初演したと言われている。
サザビーズの専門家は、確認されているストラディバリウス(約500本)の価格と、過去のオークション実績に基づき、並外れた品質と状態の「ヨアヒム・マ・ストラディバリウス」の推定価格を決定したという。ストラディバリウスの大半は、アントニオ・ストラディバリが生まれたイタリアの都市クレモナを中心に、博物館や文化施設に所蔵されている。
ジメネスは、「ヨアヒム・マは演奏可能な完璧な状態であると同時に、ストラディバリの黄金時代を象徴するもの。Lutier(弦楽器職人)としての頂点に君臨する楽器です。したがって、今回のオークションではストラディバリウスの新記録を樹立する可能性が十分にあると考えています」
オークションで落札されたヴァイオリンの現在の最高額は、かつてバイロン卿の孫娘が所有し、2011年にタリシオ・オークションハウスが落札したストラディバリウス「レディ・ブラント」の1590万ドル(現在の為替レートで23億8000万円)。
サザビーズは、幅広いコレクター、特に「恐竜や合衆国憲法、あるいは十戒の石版を落札するような」顧客層が入札に関心を示すと予想している。ジメネスは、「一生に一度あるかないかの逸品であり、楽器という枠を超越した存在。特別なヴァイオリンという以上の存在です」と興奮を隠さない。
「ヨアヒム・マ・ストラディバリウス」は、ロンドンと香港のサザビーズのオフィスで展示されたあと、2025年2月の「マスターズ・ウィーク」で競売にかけられる。
from ARTnews