カトリーヌ・ラグランジュ(Catherine Lagrange)
拠点:モナコ
職業:投資家
収集分野:現代アート、戦後美術
数十年にわたってコレクションを築き上げてきたカトリーヌ・ラグランジュは、何よりも「直感と好奇心に突き動かされている」と語る。「この作品の何が私を惹きつけたのかを考え、自分のコレクションにある他の作品とどのように呼応するのかを想像してみるんです」
ラグランジュは当初、コレクションに関する方針を決めていたわけではなかった。しかし最近、長年購入してきた作品に共通点があることに気づいたという。「コレクションの傾向の1つは、彫刻への強いこだわりです。彫刻は、アート市場での位置付けが絵画とはちょっと違います。絵画のような派手な売り込みや他のコレクターとの競争が少ない中で、非常に質の高い作品を買うことができるのです」
彼女の彫刻コレクションには、ジャン・フォートリエ、ルーチョ・フォンタナ、アリーナ・シャポシュニコフ、ドナルド・ジャッドといった美術史上の重要作家のほか、アンドラ・ウルスタ、ローズマリー・トロッケル、キャスリーン・ライアン、ジャン=リュック・ムレーヌ、キャロル・ボヴェなど、今注目のアーティストが名を連ねる。
新しいアーティストの作品を加えつつ、すでに所蔵しているアーティストをさらに掘り下げていくことでコレクションを増やし続けたいという彼女はこう言った。「私は今、より能動的なアプローチで、彫刻への関心を発展させていきたいと考えています」
とはいえ、彼女の関心は彫刻にとどまらない。「(パンクやダダに影響を受けた画家)アルバート・オーレンなど、単純に好きなものを手に入れるオープンさも持ち続けたいと思います」と語る彼女は、ルネ・マグリットの作品も数点所有している。特にマグリットの《Le Musée d'une nuit》(1927)は、ラグランジュのコレクションの土台となるものだ。「100年前と同じように、今でもコンテンポラリーなアーティストです」と、彼女はマグリットを評している。
最近入手した作品には、アナ・メンディエタが1973年に発表した、血を流す6枚組のセルフポートレートがある。「見るのが辛い作品ですから、所有したいと思う人は多くないでしょう。でも、私には彼女の反抗的な表情がとても美しいと感じられ、それを自分のものにしたいという本能的な欲求に駆られたのです。私の人生にとって、アートがいかに必要不可欠なものになったかを実感させられました」
また、2022年のヴェネツィア・ビエンナーレではベルギー代表のフランシス・アリスを支援したほか、同ビエンナーレのメイン展示にコレクションから2点の作品を貸し出した。そのことを「素晴らしい出来事」だったと語るラグランジュは、自らの収集歴についてこう付け加えた。「10年前には想像もしなかったような作品を思い切って買った瞬間を、自分でも誇りに思います。それは私自身の成長を示す印のようなものです。面白く、かつ自分自身に忠実なコレクションを作るのはそう簡単ではありません」