ノートルダムの新ステンドグラス制作者が決定。「分断の時代、文化の異なる人々に理解される作品に」
2019年の火災から改修工事を一部終え、12月8日、約5年振りに再開したパリのノートルダム大聖堂。そのステンドグラスを現代アーティストに依頼するプロジェクトが進んでいたが、このたびロサンゼルスを拠点に活動するフランス人画家クレア・タブレが選出された。
パリのノートルダム大聖堂は、約5年の改修期間を経て12月8日に再開した。その一方で、大聖堂ではフランス大統領のエマニュエル・マクロンとパリのローラン・ウルリッヒ大司教が中心となり、ステンドグラスを現代アーティストに依頼するプロジェクトが進行。110人の候補者の中から8人のファイナリストが選ばれ、このほどロサンゼルスを拠点に活動するフランス人画家クレア・タブレに決定したと発表された。選考にあたってカトリック教会は、抽象芸術家ではなく具象芸術家でなければならないという明確な指示を出したという。
タブレは現在43歳。不安げに佇む子どもたちを描いた謎めいた絵画で知られている。ペロタンとアルミン・レッシュに所属しており、2020年にはペロタン東京でも個展を開催している。タブレの作品は、マイアミ現代美術館(ICA)や、ヴェネチア・ビエンナーレでも過去2回展示されており、ロサンゼルス・カウンティ美術館や、実業家のフランソワ・ピノーにコレクションされている。
彼女の新ステンドグラスの構想は、異なる文化的背景を持つ人々が、新約聖書にあるエピソードの1つである『聖霊降臨』を祝う様子を鮮やかなターコイズ、イエロー、ピンク、レッドの色調で描いたものだ。作品説明やラベルなしで異なる文化を持つ人々にも理解できる「比喩的な芸術作品」に仕上げるという。今後、1640年にフランス・ランスで創業した名門のガラス工房の職人シモン・マルクと協力しながら大聖堂の空間と光に調和するよう具現化させていく。
タブレは今回の選出について、「皆に愛され、歴史ある建造物のステンドグラスを制作するという大胆な依頼です。最初は、自分が適任なのか疑問でした。ですが、現代の芸術を信頼しなければなりません。戦争や極端な分裂、緊張に特徴づけられる現代において、聖霊降臨祭をテーマに、私の芸術で団結を促進する機会を得たことは、希望への素晴らしい第一歩だと思っています」と語った。
だが、この大聖堂のステンドグラスを現代アーティストの作品に替えるという案は、国家遺産委員会から強い反対に遭っている。19世紀の建築家ウジェーヌ・ヴィオレ・ル・デュックとジャン・バティスト・ラスが設計したオリジナルの窓は火災による破損を免れているため、そのまま残すべきだと彼らは主張しているのだ。アートニュースペーパーによるとそのほかにも、専門家が1964年のヴェネツィア憲章および文化遺産ガイドラインに定められた「保存が不可能な場合を除いてオリジナル要素の保存を求める」という規範に違反していると指摘しており、計画に対する反対嘆願書には14万7000人以上の署名が集まった。
AFP通信によると、タブレはこの件について、記者会見で「私は人々のさまざまな意見を読んできました。なぜなら、彼らの主張を理解したいし、また、オープンで双方向的なアプローチを取りたいからです。私はこの議論を非常に興味深いと感じています」と話したという。(翻訳:編集部)
from ARTnews