再評価高まるヒルマ・アフ・クリントの子孫がメガギャラリーとの提携に猛反発。「作品が略奪される」
スウェーデンの画家、ヒルマ・アフ・クリント (1862–1944)の作品を管理するヒルマ・アフ・クリント財団と、メガギャラリーのデイヴィッド・ツヴィルナーとの間で現在進められている業務提携契約に、アフ・クリントの子孫が大反対している。
メガギャラリーのデイヴィッド・ツヴィルナーと、画家ヒルマ・アフ・クリント (1862–1944)の作品を管理するヒルマ・アフ・クリント財団が進めている業務提携契約にアフ・クリントの子孫が猛反発している。
1862年、スウェーデンに生まれたアフ・クリントは、1906年にはカンディンスキー、マレーヴィチ、モンドリアンらに先駆けて抽象画を制作していたことから「抽象芸術の真の先駆者」と評される。死後20年は作品を公開しないよう言い残したことから長い間知られてこなかったが、2018年から2019年にかけてニューヨークのグッゲンハイム美術館で開催された回顧展では同館史上最高の約60万人が来場。2022年には伝記映画『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』も制作された。日本では、来年国立近代美術館で大規模な回顧展が予定されている(3月4日~6月15日)。
アフ・クリントの子孫は、財団の理事会とデイヴィッド・ツヴィルナーの間で進められている契約は、彼女の作品のさらなる商業化に繋がるものであり、作品が「略奪」される可能性があると主張する。例えば、財団が管理する1300点のうち、193点からなる「寺院のための絵画」(1906年~1915年)シリーズは売却できないと定められているが、それ以外は、残りの作品の保存資金のためという名目があれば売却できる。
アフ・クリントの玄孫であり、取締役会の議長を務めるエリック・アフ・クリントは今回の契約を、買収対象企業の同意なしに買収が行われる「敵対的買収」であると表現している。エリックは理事会の理事長だが、他の4人のメンバーはデイヴィッド・ツヴィルナーとの契約に賛成しており、意見が対立している。エリックはガーディアン紙の取材に対して、「定款の第1項には、理事会は作品を『大切に扱う』必要があると書かれていますが、今、彼らはそれを売り払おうとしているのです」と訴えた。
一方、ギャラリーの代表デイヴィッド・ツヴィルナーはアートネットの取材に対して、契約が締結された場合、一部の作品は販売される可能性があるが、その収益は現在財団が所有する作品の管理に使用されると説明。そして、「子孫はアフ・クリントの利益を損なうような行動をとっており、それは理事会内の権力闘争です。4人の理事と、彼らを妨害しようとしている理事長の間で対立が生じています」と主張した。さらに、「4人の理事は、次の段階に進むために商業ギャラリーとのコラボレーションを望んでいます。 財団を『略奪』しようとしているという考えは、全く馬鹿げたものです。 私たちは経験豊富なギャラリーです。彼女の子孫は全てを閉ざし、何もしたくないのです」と続けた。
ツヴィルナーは、財団の理事会の大多数は、今後予定されているビルバオ・グッゲンハイム美術館、東京国立近代美術館、ニューヨーク近代美術館(MoMA)などでの回顧展の継続を望んでいると話す。ツヴィルナーも来年、ギャラリーで彼女の個展を開催したいと考えている。また、彼女の作品に関する新たな研究と、その功績を称える出版物も刊行する予定だ。
現在、アフ・クリントの作品のほとんどは財団が所有しており、子孫は販売することで生じる作品の散逸も危惧している。エリックと元財団理事長でアフ・クリントの又甥であるヨハン・アフ・クリントは、彼女の各作品は精神的な次元で繋がっており、まとめて保存する必要があると考えている。ヨハンは、「(作品を売却するのは)基礎を略奪するようなもの」と表現した。
先週、双方の契約締結は失敗に終わったとみられるが、デイヴィッド・ツヴィルナーの広報担当者はUS版ARTnewsの取材に対して、財団とは現在も「高度な協議」を続けていると明かした。(翻訳:編集部)
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