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ギャラリーからスーパー、そして駅まで! アート好きによるストックホルム観光ガイド

北欧最大の都市であるスウェーデンの首都・ストックホルムには、個性豊かなギャラリーはもちろん、アート好きにおすすめの書店やレストラン、駅(!)もたくさん。インディー誌「Nuda Paper」の創設者ふたりにおすすめアドレスを聞いた。

ストックホルムのフォトグラファー、フリーダ・ヴェガ・サロモンソンと、美術評論家でキュレーター、ライターのノラ・アレニウス・ハグダール。高校時代の同級生ふたりが立ち上げた「Nuda Paper」は、アートからファッション、デザイン、哲学、さらには科学までさまざまなテーマを掘り下げるインディー誌だ。

『Nuda』の創業者のふたり。フリーダ・ヴェガ・サロモンソン(左)とノラ・アレニウス・ハグダール(右)。

デヴィッド・リンチやスティーヴ・アオキ、ダナ・ハラウェイなど世界一流の著名人が寄稿することでも知られる同誌は、ファッション誌『VOGUE』が「スウェーデンのカルチャー&ファッション誌『Nuda』を読むべき理由」という記事を出すなど、その独自性とクオリティで唯一無二の地位を築いている。さらに近年はアートギャラリーを運営したり、ブランドや展覧会のプロデュースを手がけるなど、サロモンソンとハグダールがつくりだす世界は、雑誌の枠組みを超えて広がっている。

そんな独特な感性を持つふたりに、自身たちが運営するNuda Galleryを筆頭に、ストックホルムに行ったらチェックしたいアートなアドレスを教えてもらった。以下、文章はフリーダとノラによる。

Nuda Gallery:新進のアーティストをフィーチャー

知る人ぞ知るストックホルムの街のなかで知っておいてほしいギャラリーはいくつかあるが、わたしたちのNuda Galleryもそのひとつ。Nuda Galleryがあるのは、ハイウェイに続く道沿いに佇む建物の地下。ふたつの高級住宅街に囲まれた、ストックホルマーたちから「シベリア」と呼ばれる無人地帯にある。開廊日が不定期なので、訪れる際は、インスタグラムのアカウント(@nudapaper)をチェックするか事前予約をしてほしい。

Nuda Galleryでは丁寧にキュレーションされたアーティストによる展覧会のほか、朗読会や音楽ライブ、展示会なども開催される。新しい友人を見つけるにも、単にファッショナブルな人たちと交流するにもうってつけの場所だ。今では若いスウェーデンのアーティストを紹介するギャラリーとなったこの場所だが、その前はポルノの撮影スタジオだった。

Issues Gallery:地元のアートシーンの「いま」がわかる


Nuda Galleryからそう遠くない場所(そもそもこの小さな街に遠い場所なんてないけれど)に、私たちの親愛なる友人オスカー・カールソンが経営するIssues Galleyがある。ストックホルムの新進気鋭のアーティストをフィーチャーした素晴らしいキュレーションが魅力で、Nuda Galleryとは異なり、開廊日も定期的だ。ストックホルムの中華街(街、というより本格的なアジア料理店が多く並ぶ通りというほうが正しい)に位置するこのギャラリーは、地元のアートシーンに興味があって、超大作を掲げるほかの美術館やギャラリーでは見つけられないアーティストや作品を観たい人におすすめ。Issuesほどストックホルムの「いま」を伝えるギャラリーはそう多くない。

Konst-ig bokhandel:ニッチなアートブック&雑誌の宝庫

Konst-ig bokhandelはNuda Magazineを最初に置いてくれた店のひとつだった。付き合いを始めてみると、この店を仕切っている女性たちは母のように厳しい目をもっていて、その意味でとても嬉しい出来事だった。もちろん、Konst-igが最高の書店である理由はそれだけではない。この書店ほど珍しい本や特別な本を探すのにぴったりな場所はストックホルムにないのだ。ここは、「Dazed」や「Artforum」といった有名な雑誌の最新号を探しに行く場所ではない。ここは、スウェーデンの片田舎を拠点に活動する小さなアーティストの手縫いの背表紙と版画が付いた50冊限定のアートブックを買いに行くような場所だ。ここでカーダシアンの自撮り写真集を買うのは(それも置いてはあるのだが)、プラダの店舗に行ってわざわざナイロンのコレクションを買うようなものだ。そういう人なんだと判断される。私たちもやったことがあるから、信じてほしい。私たちは良質なものをいつも求めている。印刷物に関しては特に。

Ica Aptiten:上質な食材を(比較的)手ごろな価格で


スウェーデンの食品はとても高い。そのうえ食料品店は面白みのないチェーン店ばかりで、高価格・低品質な商品をコピー&ペーストしたような陳列になっている。Ica Aptitenも巨大食品コングロマリットであるIcaの傘下ではあるが、ここは数少ない例外のひとつだ。ストックホルムの南に位置するセーデルマルムのマリアトルゲットという「BOHOに見せかけてBoujee(ハイクラス志向)」なエリアにあるこの店は、隠れた名店だ。人生で出会う上質なものを愛する人が経営しているに違いない。形よりも機能を重視する社会における優雅なヒーローである。牛乳やトイレットペーパーを買いたい人には向かないが、いい感じのチーズや花、チョコレートが欲しければ、ここならいつでも安く手に入る。生活必需品はなく、あるのはぜいたく品だけ。そこがいい。

Rönnells Antikvariat:本の虫ご用達

1929年創業のRönnellsは、スウェーデン最大、そしておそらく最古の古書店だ。本の虫たちと交流したり、芸術をはじめチェスや剥製、哲学などに関する古くて埃っぽい書物を漁ったりしたい人には最高の場所と言える。若手作家がこぞって朗読会や発表会をしたがる場所でもあり、詩やトーク、音楽、上映会などのプログラムも開催される。こうしたイベントは、フェイスブックグループ「Rönnells vänner」や口コミで広まる。プラスチック製のグラスに注がれた赤ワインと乾いた空気、乾いたスナック、奇妙な小冊子や埃、詩人志望者たちの匂いが混ざり合う空間だ。

Riche:スウェーデン名物も音楽もここで

Photo: Isak Berglund Mattsson-Mårn

Rönnellsとスウェーデン王立歌劇場の間にある繁華街、ステューレプランは高級ファッションとボトックスの中心地だ。ここに居を構えるRicheは、アートファンからビジネスパーソンまで広くもてなすバー&レストランだ。Richeでの体験はすべて、重要な決断から始まる。左のドアをくぐれば「divicee bar」、右のドアをくぐれば「lilla baren」、つまり「小さなバー」にたどり着く。ちなみに、クールな若者たちが向かう先は「lilla baren」のほうだ。観光客にとっては、人間観察をしたり、スカーゲンラーラ(エビとディルのソース)やショットブッラル(スウェーデン風ミートボール)といったスウェーデンの名物料理を試すのに最高のスポット。週末にはDJが登場し、運が良ければ(あるいは運が悪ければ。その人の好みに寄る)小さなダンスフロアがあるかもしれない。ストックホルムではクラブはおすすめしない。だから、実質的に騒げるのはここだけだ。

エステルマルムストリ駅:名作を探しに駅に行こう

ストックホルムの観光では、島と島を結ぶさまざまな橋を歩いてわたってほしい。わたしたちの一押しはヴェスターブロン橋とスケップショルムスブロン橋だ。それゆえ、地下鉄を使う理由はない。ただひとつ、アートを観るという目的以外では。エステルマルムストリ駅のホーム沿いのコンクリートの壁には、スウェーデンを代表するアーティスト、シリ・デルケルトの作品《Ristningar i betong》(1961~1965)がある。ブラスト加工が施された壁には、シモーヌ・ド・ボーヴォワール、エリン・ワグナー、アルベルト・アインシュタイン、ジャン=ポール・サルトルといった有名な政治家や文化人の肖像画、人物画、家族風景、そして「インターナショナル」(国際歌)の楽譜が描かれている。 

Photos and Text: Nuda Edit: Asuka Kawanabe

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