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タデウス・ロパックが「アートのホットスポット」ミラノに進出。背景に外国人富裕層の増加

世界6カ所に拠点を持つ国際的な大手ギャラリー、タデウス・ロパックが今秋ミラノに新しいスペースをオープンする。同社がアート市場としてのミラノに可能性を見出している背景には、海外の富裕層を引きつけるイタリアの税制があるようだ。

タデウス・ロパックの新ギャラリーがオープンするミラノのパラッツォ・ベルギオイオーソ。Photo: Adriano Mura

オーストリアのザルツブルクを本拠地とする大手ギャラリー、タデウス・ロパックが、今秋ミラノに新拠点をオープンすることを発表した。ミラノにはマッシモ・デ・カルロやジオ・マルコーニといった中堅ギャラリーはあるが、タデウス・ロパックほどの国際展開をするアートディーラーはほとんどない。

タデウス・ロパックはこれまで、ザルツブルク、ロンドン、パリ、ソウルで6カ所のギャラリーを運営。7つ目の拠点となるミラノへの進出について、オーナーのロパックはUS版ARTnewsにこう説明した。

「国際的ギャラリーの先陣を切ってミラノにスペースを開きたいと考えました。5年前にソウルにオープンしたときはアートシーンが形成段階にあるように感じましたが、ミラノも同じだと思います。これは、ミラノのアートシーン発展の一端を担うチャンスなのです。私たちは常々、ギャラリーを着実に成長させる努力をしていますが、今回の決定は成長の必要性からくるというより、チャンスを掴むことだと思っています。ミラノで私たちがアーティストやコレクターのためにできることが広がっているので、自然な選択でした」

新ギャラリーがオープンするのは歴史あるパラッツォ・ベルギオイオーソの一角で、約280平方メートルもの広さがある。ミラノ事業の責任者となるエレナ・ボナーノ・ディ・リングアグロッサは、エグゼクティブディレクターとして最近ロパックに入社した。以前、ニューヨークとロンドンに拠点を持つレヴィ・ゴーヴィ・ダヤンでシニアディレクターを務めていた彼女は、US版ARTnewsの取材にこう答えている。

「新しいギャラリーは、ミラノに向かって開かれた窓のようです。展示スペースは屋外の広場まで広がり、そこに彫刻作品を展示することもできます。街を巻き込み、広場を行き交う人々にも見てもらうことのできるスペースになるでしょう」

タデウス・ロパックがミラノ進出を決めた背景には、この都市における外国人富裕層の増加、中でもイギリスの富裕層増加を見込んでいることがある。というのは、昨夏に成立した労働党政権が、いわゆる「非居住(ノン・ドム)」ステータスの廃止を決定したためだ。従来の非居住ステータスでは、イギリスに居住しているが海外に永住権を持つ場合、国外所得に対する税金が免除された(ただし、代替定額税が課され、この税金は時間の経過とともに増加する)。

これに対し、イタリアでは2017年以降、海外所得に対する年間課税額が一律10万ユーロ(直近の為替レートで1630万円)とされている。最近、新規居住者については20万ユーロに倍増されたが、富裕層にとっては依然として魅力的な制度だと言える。

さらに、ミラノのシンボルであるドゥオーモや、先月ブレラ地区のパラッツォ・チッテリオにオープンした近現代美術館が、新ギャラリーの徒歩圏にある利点も見逃せない。発案から半世紀の歳月をかけて完成したパラッツォ・チッテリオの美術館は、ミラノが現代アートの発信地として存在感を増していることを示している。

ロパックは新ギャラリーへの抱負をこう語った。

「ここにギャラリーを開こうと考え始めてから、さまざまな面でどんどん魅力的に感じるようになりました。新しい土地で開業する場合、地域社会に溶け込むことが不可欠ですが、それには地元のアーティストを開拓するオープンな姿勢も含まれます。ロンドンやソウルで拠点をオープンしたときも、ロンドンを拠点とするアーティストや韓国人アーティストを数多く紹介しています。また、これまでミラノやイタリアで展示されたことのないアーティストにも焦点を当て、ロパックの所属アーティストや国際的な展覧会プログラムも紹介していく予定です」(翻訳:石井佳子)

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