ロサンゼルス山火事で多くのアーティストが自宅や作品を失う。美術館や歴史的建造物も被害に
1月7日に発生したロサンゼルスの火災は甚大な被害を与えながら今なお延焼を続けている。US版ARTnewsがアーティストやアート関係者、ギャラリーの現在の火災被害の状況をまとめた。
ロサンゼルスで1月7日に発生した火災は、ハリケーンのようなスピードの風と、数カ月間雨が降らなかったことによる乾燥した空気により燃え広がり、14日14時現在で計1万2000棟以上が焼失。24人が死亡し、20人が行方不明となっている。その火災の被害はアーティストやアート関係の施設、関係者にも及んでいる。
これまでに甚大な被害が生じたのはロサンゼルス西部にある高級住宅街パシフィック・パリセーズで、大部分がほぼ完全に焼け落ちた。火災で自宅を失ったアーティストのキャサリン・アンドリュースは、被災したアーティストやアート関係者の情報を収集している。その中には、画家のアレック・イーガンの名があった。彼は自宅とアトリエを失い、所属するアナット・エブギ・ギャラリーで今月末から開催される個展のために2年間かけて完成させた作品をほぼ失ったという。同ギャラリーはInstagramで、「私たちは、アレックと彼の家族が無事であることに感謝し、悲劇的な喪失と不安に直面している全ての人たちに哀悼の意を表します」というメッセージを投稿。そして、イーガンの2022年の個展ポスターをオンラインで販売し、その収益の100パーセントをイーガンに寄付することを明らかにした。
パシフィック・パリセーズの付近の丘にはゲティ財団が運営する美術館、「ゲティ・ヴィラ」と「ゲティ・センター」(総称J・ポール・ゲティ美術館)があるが、そのうちゲティ・ヴィラは、美術館とスタッフに被害はなかったものの、敷地が炎上した。1月11日、ゲティ・センターも強制避難区域となったが、その翌日に非難区域が変更され、美術館は 「安全で安定している」と発表した。
パシフィック・パリセーズと並び、アルタデナ地区で発生した「イートン火災」も甚大な被害を及ぼした。同地区では、彫刻家であり職人であった故ジラー・ゾルティアンが数十年前に設立した芸術家のコロニー兼牧場「ゾルティアン・ランチ」の2つのメインハウス以外の施設やゾルティアンが制作した彫刻などが失われた。2人の職員がロサンゼルス・タイムズ紙に語ったところによると、彼らは12人ほどのアーティストとともに難を逃れ、動物たちも森に逃げて命拾いしたという。被害が報じられてすぐに「GoFundMe」で募金活動が開始され、現在までに9万1206ドル(約720万円)が集まっている。
また、アルタデナ地区にあったアーティストのダイアナ・セーターとコンセプチュアル・アーティストのT・ケリー・メイソンの自宅が全焼し、彼らが所有していた数千ドルのカメラ機材、温度管理されたガレージに保管されていたアーカイブが失われたとニューヨーク・タイムズ紙が伝えた。その中には、ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)が2026年に向けて進めているリニューアル・オープンのためにセーターが制作していた作品も含まれている。
そのほか同地区では カミラ・テイラー、ケリー・アカイシ、ポール・マッカーシー、ロス・シモニーニの自宅やスタジオ、アーカイブも全焼したという。テイラーは今年、3つの展覧会を控えており、その準備の真っ只中にあった。マッカーシーはロンドンのハウザー&ワースでの個展を延期せざるを得なくなり、アカイシは今月末にロサンゼルスのリッソン・ギャラリーで初個展を開く予定だった。皮肉な事に、アカイシは近作のひとつを《Monument to Loss(喪失の記念碑)》と題する計画だったという。
不幸な巡り合わせで被害に遭ってしまったケースもある。昨年10月にニューヨークのイースト・ヴィレッジのアパートで死去した芸術文化評論家、ゲイリー・インディアナの蔵書やアーカイブが、資料館の準備のために1月7日、アルタデナに移送されたばかりで焼失した。この出来事についてジャーナリストのコルム・トイビンは、「ゲイリーが大切にしていたサイン入りの本や希少な美術書、奇妙な本たちが、アルタデナに届くのがあと1日遅ければ助かっただろう」とロンドン・レビュー・オブ・ブックスへの寄稿で嘆いた。
また、アーティストと協力し、昨年PST Artで展覧会「Blended Worlds: Experiments in Interplanetary Imagination」を開催したNASAのジェット推進研究所(JPL)はイートン山火事の強制避難区域に含まれており、現在JPLの約1000人の職員は避難している。JPLのローリー・レーシン所長のXへの投稿によれば、そのうち150人以上が火事で家を失ったという。NASAの最も有名な宇宙船の本拠地でもあるこの施設を救うべく、カリフォルニア工科大学およびJPLの災害救済のための募金活動が開始された。
そして、多くの歴史的建造物もこの火災の被害に遭った。ロサンゼルス・タイムズ紙によると、建築家のイロン・ハントとエルマー・グレイが1907年にシカゴの事務機メーカー、アーサー・ハーバート・ウッドワードのために建てた「ゼイン・グレイ邸」が焼失したという。鉄筋コンクリートの大きな建物は、鋳鉄製の燭台、鉄製の手すり、シャンデリアが特徴で、国家歴史登録財にも登録されていた。
ロサンゼルスにあるマリアン・グッドマンからデイヴィッド・ツヴィルナーまで様々なギャラリーは現在クローズしており、オープンの見通しは立っていない。だが、ペースとペロタンは1月11日、ハウザー&ワースは12日に再開した。
ロサンゼルスの美術館も閉館中の場所が目立つが、中には被災者のために開館している施設もある。ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)はInstagramで、「多くの人々が悲しみ、考え、希望を抱き、人と語らうための場所や空間を必要としています」として、17日まで入館と駐車場料金を無料にすると公表した。ザ・ブロードも14日から開館し、「無料のアートで心をリフレッシュしたり、Wi-Fiなどの当館の設備を活用ください」と呼びかけている。(翻訳:編集部)
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