英政府が「ソフトパワー」委員会を設立。クリエイティブの力で「国力強化や経済成長を目指す」
ソフトパワーによる国力強化や経済成長を目指し、イギリス政府が新たにソフトパワー・カウンシルを発足させた。1月15日の第1回会合には、デイヴィッド・ラミー外相、リサ・ナンディ文化相などが顔を揃えている。
イギリス政府は、自国のソフトパワー増進とクリエイティブ産業支援に本腰を入れるため、26人の委員で構成される諮問委員会、ソフトパワー・カウンシルを立ち上げた。メンバーには、ヴィクトリア&アルバート博物館のトリストラム・ハント館長、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの幹部であるサー・ピーター・バザルジェットのほか、メガギャラリーのハウザー&ワースが設立したホスピタリティ・グループ、アートファームの元CEOユアン・ヴェンタースや、テートのチェアマンを務めるローランド・ラッドも含まれている。
ソフトパワー・カウンシルは年4回の会合を通じ、「多様性があり、幅広い分野にわたるイギリスの強みを生かして、そのイメージや提案を世界に広める進歩的な政府キャンペーンの計画」を策定する。「ソフトパワーと外交政策の専門家を集め、ソフトパワーに関する新しい確固としたアプローチを推進する」同カウンシルの発足について、イギリス政府は声明で次のように述べている。
「新設されたカウンシルは、政府との緊密な連携によってイギリスの広範な成長と安全保障上の目的を推進できるセクターや産業にどんなチャンスがあるかを明らかにします。政府によるキャンペーンや外交政策、文化、スポーツイベントへの体系的なアプローチを通じて、より大きなインパクトを与えることになるでしょう」
また、デイヴィッド・ラミー英外相は次のような声明を出した。
「ソフトパワー・カウンシルは、世界という舞台におけるイギリスの役割の再考、同盟関係の活性化、新たなパートナーシップの構築を目的とし、我われの持つ力を活用するために設立されました。ソフトパワーは、イギリスが世界中に影響を与え、評価を獲得するための基盤です。私はしばしば、イギリスの音楽やスポーツ、教育、文化施設が、世界各国から非常に愛され、リスペクトされていることに驚かされます。しかしこれまでは、この巨大な資産に対する国としての十分な戦略的アプローチが取られてきませんでした。ソフトパワーを効果的に活用することで、世界における関係構築や信頼の深化に加え、安全保障を強化し、経済成長を促進することができるのです」
なお、ブランドコンサルティング会社のブランド・ファイナンスが2024年に発表したグローバル・ソフトパワー・インデックスによると、現状イギリスは主要ソフトパワー指数で全てトップ3以内にランクされている。
このソフトパワー・カウンシルの発足と時を同じくして、リサ・ナンディ英文化相は1月17日、同国クリエイティブ産業への6000万ポンド(約114億円)にのぼる投資を発表。イングランド北部のゲーツヘッドで行われた演説で同文化相は、イギリス国内の映画、テレビ、音楽、演劇、芸術、ビデオゲーム分野で「ターボをかける」と述べ、経済成長の可能性を阻む障壁を取り除くことに全力を挙げると強調した。
「これまでの政府も、クリエイティブ産業の文化的価値や社会的価値については理解していましたが、経済的な可能性にはほとんど目が向けられてきませんでした。それを単に口にするのと行動に移すのでは大きな違いがあります。クリエイティブ産業は、何が自分たちの足かせになっているのか実情を訴え、要望を伝えてきたのです」
同文化相によれば、クリエイティブ関連分野の代表者たちは、この産業への投資不足に加え、教育現場で学習内容から芸術科目が減らされており、それがクリエイティブ産業におけるスキル低下を招いていると訴えたという。
「映画やファッション、ビデオゲーム分野の仕事に就きたいと思いながら、それができない子どもたちがどれだけいるかを思うと、悲劇としか言いようがありません。まるで月に行くことを夢見るような状況になってはいけないのです」
前述の予算額、6000万ポンドについて同文化相は、半分以上が「新興のビデオゲームスタジオや音楽施設をはじめ、さまざまな分野の草の根クリエイティブベンチャー」支援に充てられると述べている。
この措置は、近年イギリスの芸術文化予算が削減の一途を辿ってきたことを受けて講じられた。2017年以降だけを取っても、イングランドの地方政府予算は48%減にまでなっている。これについてナンディ文化相は昨年末、「音楽、芸術、美術館・博物館などの文化セクターが脆弱であることを深く認識している」とコメントしていた。(翻訳:石井佳子)
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