ARTnewsJAPAN

経済危機のガーナで総費用622億円? デイヴィッド・アジャイが手掛ける大聖堂建設が見直しに

世界的に著名な建築家、デイヴィッド・アジャイガーナで進めている国立大聖堂建設について、経済危機に直面するガーナでは、建設費用の4億ドル(約622億円)が物議を醸している。このほど発足した新政府は建設計画の調査を発表した。

ガーナの国立大聖堂の完成予想図。Photo: Courtesy Adjaye Associates
ガーナの国立大聖堂の完成予想図。Photo: Courtesy Adjaye Associates

現在ガーナの首都アクラでは、建築デイヴィッド・アジャイによる国立大聖堂の建設が進められている。その費用として4億ドル(約622億円)が計上されており、経済危機に直面するガーナでは問題視されている。

デイヴィッド・アジャイは1966年生まれのガーナ系イギリス人で、デンバー現代美術館(2007年)や、ワシントンD.Cのフランシス・A・グレゴリー近隣図書館とベルビュー/ウィリアム・O・ロックリッジ図書館(2012)など数々の建造物を手掛けている。中でも最も有名なのはワシントンの国立アフリカ系米国人歴史文化博物館(2009)だ。2021年にはアフリカ人として初・史上最年少で王立英国建築家協会(RIBA)が優れた建築家に対して与える「ロイヤル・ゴールド・メダル 」を受章。現在はハーレムのスタジオ美術館も手がけている。だが2023年、女性に対する性的暴行とセクハラで訴えられ、アジャイ側は否定している。

国立大聖堂の建設は、昨年12月の選挙で敗北したナナ・アクフォ=アド前大統領が2016年の当選時に公約に掲げた。建設費用は4億ドル(約622億円)で、同政権は民間資金で賄うとしてきたが、実際にはこれまでに5800万ドル(約90億円)の税金がこのプロジェクトに費やされており、激しい議論の的となってきた。2022年には、アジャイの会社アジャイ・アソシエイツが得た報酬2140万ドル(約33億円)が、議会で承認されていないものなので返却するようガーナの政治家が嘆願している。

この背景には、ガーナの厳しい経済状況がある。同国は、近年で最悪の経済危機に陥っており、2024年には国際通貨基金(IMF)から30億ドル(約4674億円)の救済融資を受けた。物価上昇率(インフレ率)は、救済措置以来大幅に改善しているものの、依然として23.8%と高い水準にある。

国立大聖堂の建設自体も、政府側の支払いが遅延したために請負業者がボイコットし、現在建設予定地には巨大な穴が開いた状態で放置されている。BBCによると、昨年12月の選挙で新しく選ばれたジョン・マハマ大統領は、ガーナの人権・行政裁判委員会に依頼して、この建設に対する監査と「公的資金の不正使用の有無」に関する調査を行うという。また、ガーナの財務大臣であるカシエル・アト・フォーソンは、大聖堂建設に公的資金はもう使用されないと述べたと報じられている。

ガーナは信仰心が厚い国であり、国民の70%がキリスト教徒だ。国立大聖堂は、全てのキリスト教徒のための神聖な空間であり、国家的な宗教儀式が行われる場所となることが想定されていた。また、聖書博物館や全国会議場も併設される計画だった。

マハマ大統領は、大聖堂の建設自体を否定したわけではない。彼は調査計画の発表時に、「このようなプロジェクトを達成するためのより現実的な数字を算出することは可能であり、共にそのための資金調達を行うことができます」と発言している。

一方で、マハマが所属するNDC党は一貫してプロジェクトの破棄を求めてきた。NDC党のクワベナ・ミンタ・アカンドー議員は次のように主張する。

「国内にはコレラの流行や教育など、より差し迫ったニーズがあるのに、なぜ大聖堂を建設する必要があるのでしょうか?私は、ジョン・マハマ大統領に大聖堂を建設することを期待するような人はいないと思います」(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい