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  • 2024.04.17

飛び降りが相次ぎ閉鎖されたマンハッタンの巨大アート、防護ネットを設置して再開へ

ニューヨークの人気観光スポットである階段状の構造物「The Vessel(ベッセル)」は、2021年に複数の自殺者が出たため一般公開を中止していたが、安全策を取ったうえで今年中に再開されることになった。来場者は以前のように歩いて登れるようになる。

ニューヨーク・ハドソンヤードの人気スポットとなったベッセル(2019年撮影)。Photo: Roy Rochlin/Getty Images

マンハッタンのハドソンヤードでひときわ目を引くベッセルは、イギリスの著名な建築家・デザイナー、トーマス・へザウィックが手がけた巨大パブリックアート。高さは約45メートルあり、階段と踊り場で構成される蜂の巣のような特徴的な形状をしている。AP通信によると、一般公開の再開にあたっては複数の場所に耐切創性の金網が設置され、最上階は立ち入り禁止になるという。

ハドソンヤード再開発の中心的デベロッパーであるリレーテッド・カンパニーの広報担当者は、再開時期については明言しなかったが、「今年後半に再び訪問者を迎えることを楽しみにしている」とAP通信に答えている。

インドの階段井戸に着想を得たというベッセルの当初予算は7500万ドル(直近の為替レートで約115億円、以下同)だったが、「造園部分の追加があった」ため、最終的には2億ドル(300億円超)にまで膨れ上がったとされる。154の階段と80の踊り場からなるこの構造物は、来場者に一種の疲労感を与えることを意図したとして、ヘザウィックは2018年にニューヨーカー誌にこう説明した。

「階段がいいのは、体を使い始めるとすぐ、芸術性のことなどどうでもよくなるところです。脚に力を入れるのは特に効きますから」

一方、美術評論家のアンドリュー・ラセスは、この3月にアート・イン・アメリカ誌でこう書いている。

「2019年にオープンしたベッセルは、コンピュータの画面から現実の世界にドラッグ&ドロップされたデジタルの創造物のようで、異質かつ威嚇的な印象を与える。それは、めまいがするような巨大資本と野心への空虚な賛美と言えるだろう。2021年7月から閉鎖されているが、今の時代を代表する建築プロジェクト、アート作品の1つに数えられるのは間違いない」

しかし、ヘザウィックの設計では障害者の利用が難しく、1990年のアメリカ障害者法にも違反していることが判明。そのため、ニューヨーク州検察局は2019年に階段昇降機の設置を求めた。

こうした経緯はあったが、ベッセルは瞬く間にハドソンヤード再開発の目玉として人気の観光名所となった。しかし、その後4人が飛び降りて死亡する事件があり、2021年7月に立ち入りが禁止されている。実は同じ年の初め、3人目の飛び降りがあったために一時閉鎖となり、自殺を防ぐための看板設置、警備の強化、1人での入場を禁止したうえで5月に再開していた。

マンハッタン区コミュニティ委員会のジェシカ・チェイト委員長は、今回の安全策を歓迎しつつ、この対策はかなり以前から提案されていたものだとしてAP通信にこう語った。

「対策が講じられるまでに4人もの命が奪われてしまいました。今回の措置は、私たちがベッセルを訪れる人たちの安全を第一に考えて要求したものです」(翻訳:石井佳子)

from ARTnews

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