画材もリサイクルする時代に!日本唯一の画材リユースショップが生む、緩やかな循環

中古の画材を専門に扱う日本唯一の画材リユースショップ「Re arts Garden」。比較的に寿命の長い額縁やイーゼルのみならず、絵具や鉛筆、粘土、さらには日本画の画材まで、あらゆる画材を取り扱うこの店はどう始まったのか? 代表を務める有澤紗生に訊いた。

リサイクルショップと聞くと、家具や家電、服などを取り扱う店を想像する人が多いだろう。だが練馬の「Re arts Garden」は、日本で唯一画材を専門に扱うリサイクルショップだ。練馬駅から15分ほど歩いた場所にある店には、絵の具から額縁、絵筆、ニス、粘土や日本画で使う膠(にかわ)まで、さまざまな画材が手ごろな価格で並んでいる。

主な客は、美大生や趣味で創作活動を続けている人たち。「生産中止になってしまった絵の具や顔料を探すために、現役の作家が訪ねてくることもありますよ」と、Re arts Gardenの代表を務める有澤紗生は語る。

店にある画材は、どれも不要品として有澤が引き取ったものだ。引き取りを依頼する人の6割が60代以上か、高齢者の家族なのだという。

「はじめは、若手の作家が引っ越す際に持てあます不要な画材を引き取るつもりで始めました。でも、続けていくうちに遺品整理などに需要があることに気づいたんです」と、有澤は語る。「家族の所有物だと、大事に残したり次の人に譲ったりしたいという気持ちが一層強まるのだと思います。そういう感情も含めて、画材を必要としている人に循環させていきたいです」

売れ筋だという絵筆。
絵具の価格は、状態や残っている量に応じて数十円から数百円までさまざまだ。
ときには、作品も一緒に引き取ることも。
使いかけのニス。
額縁やイーゼル。

誰も手をつけていないビジネス

有澤がRe arts Gardenを立ち上げたきっかけは、自身が美大生時代に感じていた問題意識だ。「在学中、まだ使える画材をたくさん捨てていた感覚があって、もどかしさを感じていました」。その想いから卒業後の2021年に前身となるリユースプロジェクトを立ち上げた。

当時は店舗もなく、運営はネットショップ上のみ。引き取った画材は自宅で保管していた。ところが、在庫の量が増えるにつれ倉庫が必然的に必要となった。「自由にDIYができて、事務所としても使える物件に巡り会えたので、ここを借りることにしました。店舗兼倉庫として営業して、実際にお客さんに手に取って選んで買ってもらったほうがいいという理由もあります」

商品の配置や売り方、店内のデザインは、同じように中古画材のリユースに取り組んでいるアメリカのNPOや企業を参考にしている。というのも、日本の画材の中古市場はメルカリやYahoo!オークションといったネットオークションサイト上にしか存在しないからだ。しかし、「誰も手をつけていないビジネスを発見したことに対する喜び」を原動力に、彼女なりにノウハウを蓄えていったという。

Re arts Gardenの代表を務める有澤紗生。

とはいえ、日本では前例のない画材のリサイクル事業。不安はなかったか尋ねると、彼女は笑って答えた。「需要があればうまく回るし、なければそれはそれ、という感覚で始めました」

引き取りは月に10~15件ほど。2カ月で半年分以上の買い取りをしてしまうこともある。店の奥には、有澤が直接クルマを走らせて引き取ったり、郵送されてきたりした画材が所狭しと並んでいる。いつどんな画材の引き取りのリクエストがくるかはわからない。「全部自己資金で、何もかも手探りで進めている感覚です」

営業開始当初は画材を無料で引き取っていたことから、原価は0円。しかし、以前の持ち主から回収した画材のなかでも、値段がつけられるものはお金を支払った方がリユースの促進につながると考え、買い取りサービスを2023年10月に開始した。

「絵の具であれば1キログラムあたり100〜300円で買い取っています。極端に乾燥してしまった油絵の具のように次の使い手が見つからなさそうなものは、お客さんが事前に仕分けてくれるので、引き取り後にこちらで廃棄することは少ないです」

コピックや単体の色鉛筆も需要がある。

若年層の意識の変化も追い風に

中古市場の専門紙「リサイクル通信」の調査結果によると、2022年のリユース市場規模はおよそ2兆9,000億円に上り、2030年には4兆円まで規模が拡大すると推測している。また、博報堂が発表した「生活者のサステナブル購買行動調査2023」は、環境に配慮した買い物を意識した購買行動の傾向が高まっていることを示している。

こうした傾向は特に若年層に多く見られ、買い物の際に何を意識しているのか、という問いに対して「不要になったがまだ使えるものは人にあげたり売ったりする」「新品を買わずに中古品を買う」と答えた10〜20代の若者が多い。そうした意識の変化も、Re arts Gardenの需要を後押ししているのかもしれない。

美術大学のそばでのポップアップは特に人気だ。「店舗は週に3日しか営業していませんが、ポップアップを開催した1日で1週間の売り上げを上回ることもありました」と、有澤は語る。

加えて、Re arts Gardenは寄付活動にも力を注いできた。引き取った絵の具のうち残量が少ないものを学生団体やワークショップなどのイベントに無償で提供したり、アーティストに寄付したりといったことだ。

また、有澤の母校である多摩美術大学には、制作の過程で出てしまった廃棄物を削減するために立ち上がった「多摩美リサイクルプロジェクト」という学生有志団体がある。2023年にはRe arts Gardenが販売基準を満たさない画材を寄付し、団体が無料配布していたという。

限られたスペースの中に作品や画材を保管し続けることは難しく、やむを得ず処分しなくてはならないときもある。不本意な処分を減らすために立ち上げられたRe arts Gardenは、画材に対する姿勢に変化を促す大胆な試みだ。有澤は語る。

「中古で画材を購入するという意識は、まだ根付いていません。実際に販売してみるとお客さんの抵抗はなく、『使えるものであれば』と言って購入されていきます。将来的に、同じような画材リユースショップが増えればいいですよね」

Re Arts Garden 住所:〒176-0001 東京都練馬区練馬2-33-18 店舗営業日:金・土・日 時間:12:00-18:00

Photo: Yuki Tsunesumi Text: Naoya Raita Edit: Asuka Kawanabe

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