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氷河期の若者もチークピアスを愛用? 旧石器時代の人類の歯についての研究が明かす「帰属の象徴」

旧石器時代の遺骨を分析した結果、歯のエナメル質が「不自然に摩耗している」理由は噛み癖や歯ぎしりではなくピアスによるものである可能性が高いことが明らかになった。

下唇のピアスは、現代のパンクスが身に着けていることが多い。Photo Christopher Furlong/Getty Images
街ゆく人がチークピアスを身に着けているのを見たことがある人もいるかもしれない。Photo Christopher Furlong/Getty Images

顔にピアスをいくつか開けることは現代の若者の「反抗」の一種と考えられがちだが、先史時代の少年少女たちも同様に顔にピアスを開けていたことが、考古学誌のJournal of Paleolithic Archaeologyに掲載された研究内容から明らかになった。

この研究結果は、氷河期のヨーロッパ人の歯に特有の摩耗について調査しているコインブラ大学の生物人類学者、ジョン・ウィルマンによって発表された。ウィルマンは、旧石器時代を生きた人類の犬歯や臼歯に見られる不自然な摩耗は、噛み癖や歯ぎしりによるものではなく、当時着用されていたピアスであったと推測している。

ウィルマンの研究によると、先史時代の人類の間で親しまれていたファッションの一つに、チークピアスがあったという。これは単なる装飾品ではなく、コミュニティへの帰属を示すもので、10歳前後の子どもたちが身に着けていたという。ウィルマンは科学メディア、Live Scienceにこう語っている

「乳歯にピアスの痕跡が残っていることから、当時の人々は幼少期からチークピアスを装着していたと考えられます」

また、大人は複数の歯のエナメル質が失われていたため、年齢を重ねるごとに、あるいは思春期や結婚といった通過儀礼の際に、大きなサイズのピアスを身に着けるようになったとも推測されている。

木や革といった腐りやすい素材でできたピアス自体は、もう残っておらず、遺骨には不自然なくぼみが残っているだけだ。しかし、なかにはうまくピアスの穴が開けられていなかった人もいたようで、「“逆”歯列矯正のようにピアスによって歯が動いてしまった個体もありました」とウィルマンは言う。一部の遺骨には、金属や骨といった素材でできたピアスが歯に押し付けられた結果、歯が乱ぐいになっている兆候も見られた。

この発見は他の考古学者たちからも評価されており、ビクトリア大学の教授であるエイプリル・ノーウェルは、「氷河期の若者たちを研究している者として、この研究から非常に刺激を受けました」と語る。ノーウェルによると、狩猟採集社会で日常的に使われていたもののほとんどは、経年によって朽ち果てているため、当時の非常に洗練された文化が過小評価されてしまうことが多いという。

またノーウェルは、ウィルマンの研究は「長らく消滅していた過去の慣わしを垣間見ることのできる窓」を提供し、古代の人々がアイデンティティや地位、帰属意識をどのように表現していたかの洞察を与えてくれると言う。ウィルマンは今後、氷河期に装着されていたと考えられるピアスに相当するものが、他の集団でも存在していたかどうかを確かめるために、パブロフ人と氷河期の埋葬地から出土した人工物を詳しく調査する予定だ。(翻訳:編集部)

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