イスラム国が破壊した歴史的建造物をユネスコが再建。14世紀に起きた「塔の歪み」まで再現
ユネスコが2018年から実施する「Revive the Spirit of Mosul（モスルの精神を蘇らせる）」プログラムの一環として、イスラム国（IS）が破壊したイラクのアル・ヌーリモスク（アル・ハドバ・ミナレット）、アル・タヘラ教会、アル・サーア修道院の再建が完了したと発表された。
ユネスコは、イスラム国（IS）が破壊したイラクの文化遺産を修復する「Revive the Spirit of Mosul（モスルの精神を蘇らせる）」プログラムを2018年から実施してきた。主にアラブ首長国連邦と欧州連合（EU）による資金提供のもと1億1500万ドル（約178億円）規模で行われてきた同プログラムにより、第2の都市「モスル」のアル・ヌーリモスク（アル・ハドバ・ミナレット）、アル・タヘラ教会、アル・サーア修道院の再建が完了したと発表された。
モスルは古代から中世にかけて重要な交易ルートとして発展し、1535年からオスマン帝国、1623年からサファヴィー朝ペルシャの支配を受けるなど、歴史的に様々な民族や宗教団体の居住地となり多様な文化が混じり合った。モスルにはユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒のコミュニティを隔てる壁は無く、異なる宗教の施設が共存している。
2014年、ISはモスルを占拠し、過激なイデオロギーを住民に押し付け、数千人を殺害した。それから3年後、アメリカが支援する連合軍がイラク軍および政府系民兵組織と連携して、激しい地上・空からの攻撃を展開した末に、ISの支配からモスルを奪還した。
その翌年、ユネスコはISの攻撃により失われた多くの歴史的建造物、教会やモスクを再建する「Revive the Spirit of Mosul」プログラムを発足。モスル出身の工学、考古学、建築、地質学の専門家が同プログラムに携わり、作業員も地元の人々を積極採用。ユネスコの集計によると、1300人以上が再建支援のための訓練を受けたという。
同プログラムでは、モスルの主要な宗教施設を再建した。12世紀に建立された「アル・ヌーリ・モスク」は、敷地の北西隅にある高さ約40メートルの尖塔「アル・ハドバ・ミナレット」がシンボルだった。塔は14世紀に歪みが生じ、そのことから「せむし」の愛称で親しまれていたが、2017年にISにより破壊された。再建にあたりユネスコとモスル大学が市民に調査したところ、94パーセントが「破壊前の状態に正確に復元してほしい」と回答した。そこでユネスコは、ピサの斜塔の専門家の協力を得て、二重螺旋階段を持つ内部構造や、歪みを持つ装飾的なレンガ造りの外観を含む尖塔の全てを再現。がれきの中に残されていた地雷や爆発物の撤去作業も行った。この際に、古代の沐浴場として使用されていたとみられる4つの部屋が発見されることにもなった。
同じく2017年に大きな被害を受けたアル・タヘラ・シリア・カトリック教会は、1862年に開設された。複数の祭壇、食堂、2つの聖具保管室、中二階を備えており、同時代の他の教会とは一線を画すスタイルで知られていた建造物だ。再建作業では、崩落した屋根やアーケード、内部のアーチを描く天井が復元され、イタリアから聖母マリア像などのモチーフで装飾された2つの新しい鐘が贈られた。図書館には800冊の写本コレクションがあったが、神父と多くの支援者の手によりISに占拠される前に避難させることに成功したという。また、1870年に設立されたアル・サーア修道院にも、再建時にフランスから3つの新しい鐘が贈られた。さらに、モスルの旧市街にある124軒のオスマン帝国様式の家屋も修復された。
歴史的建造物の再建完了について、ユネスコのオードレ・アズレー事務局長は声明で、「ここで私たちは、多くの人々が乗り越えられないと考えていた危機から回復するための、遺産、文化、教育の力を実証しました」とコメントした。2月5日に祝賀イベントが開催されたが、再建した建造物の正式な開館は2025年後半を予定している。（翻訳：編集部）
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