中国現代美術のダイナミズムに触れる──北京の注目美術館&ギャラリー20選【MAP付き】

近年急成長を遂げている中国のアートシーン。富裕層が盛んにアート投資を行いオークションマーケットの規模が大きくなっているのはもちろんのこと、美術館やギャラリーも活況を呈している。今回ARTNews Japanは、中国のなかでも大規模な施設が集まる北京にフォーカスし、注目すべき美術館やギャラリー、アートブックストアを20軒ピックアップ。記事末尾のマップも参照しながら、北京のダイナミズムに触れてほしい。

Photo: zhang kaiyv/Unsplash

近年急成長を遂げている、中国のアートシーン。なかでも美術館やギャラリーが集まり活況を呈しているのが、北京と上海だ。とりわけ北京は中国随一の巨大アート地区「798 Art District」を中心にさまざまなギャラリーが軒を連ねており、国内のアーティストはもちろんのこと、海外の著名アーティストによる展示も多く開かれている。東京やソウルなどアジア圏の都市と比べてみると、北京の美術館やギャラリーの規模の大きさに驚かされるだろう。

今回、ARTnews JAPAN編集部は、ダイナミックに発展しつづける北京のアートシーンに迫るべく、独断と偏見で20の美術館やギャラリー、アートブックストアをピックアップ。北京のアートシーンを黎明期から支えてきたギャラリーから、積極的に海外へ発信を行い中国現代美術の影響力を高めるギャラリーまで、北京のダイナミズムを感じ取ってほしい。

1. 798 Art District/798芸術区

1950年代に建てられた工場群をリノベーションした798 Art Districtは、中国を代表する超広大な現代アート地区。大小のギャラリー、美術館、デザインスタジオ、カフェなどが集積し、北京のアートコミュニティの中心地となっている。M WOODSやUCCAをはじめ、著名美術館やギャラリーも入居しており、毎年「北京クィア映画祭」や「北京デザインウィーク」の主要会場にも選ばれるなど、中国現代文化の発信拠点として国内外に知られている。

2. M WOODS

2014年に若手コレクター夫妻によって798芸術区に開館した私立の非営利現代美術館。元兵器工場の建物を改装した館内で国内外のコンテンポラリーアート作品を収蔵・展示し、年間を通じてパフォーマンスや音楽イベント、教育プログラムなど多彩な企画を開催する。常設コレクション展示に加え、アンディ・ウォーホルの大規模展など国際的なアーティストの展示も定期的に開催している。

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3. UCCA

2007年にベルギー人コレクター、ギー・ユーレンス夫妻によって798 Art Districtに創設された、中国を代表する独立系の現代美術館​。旧工場を再生した約1万平米の館内で国内外の現代アート展を開催し、年間100万人ほどの観客を集めている​。2017年に運営組織を再編し、展覧会や調査研究・教育普及を行う非営利財団と、アートグッズ販売などを担う企業部門を併設する体制へ移行。2018年に秦皇島のUCCA沙丘美術館、2021年に上海のUCCA Edgeを開設するなど拡大を続けている。

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4. Today Art Museum/今日美術館

2002年に創立された、中国初の私立非営利の現代美術館。旧工場ボイラー棟を改装した約4,000平米の館内に1,000点近い現代美術コレクションを擁し、特に絵画に注力した展示を行っている。国内では劉小東や劉煒、馮夢波など著名作家を取り上げ、国外からはジェームズ・ジーンやイザベル・コルナロ、ボブ・ディランといった多彩なアーティストの展覧会を開催してきた。

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5. Tang Contemporary Art/当代唐人芸術中心

1997年にタイ・バンコクで立ち上げられ、その後北京や香港などアジア各地に計8つのスペースを展開する現代美術ギャラリー。実験的な企画展やキュレーションに注力し、アジアの現代美術の発展に寄与してきた。中国美術界の重要作家を数多く擁し、アイ・ウェイウェイのインスタレーションや​1980年代の前衛作家から、新進気鋭のビデオアート作品まで幅広く取り扱う。国内外のアートフェアや美術館との協働を通じ、中国の現代作家を国際舞台へ紹介している​。

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6. Song Art Museum/松美術館

映画プロデューサーでもある実業家の王中軍が2017年に開館した私立美術館​。その名の通り敷地には約199本の松の木が配され、都会の喧騒から離れた静謐な環境を生み出している。子供向け美術体験エリアや図書室、修復室、カフェ、レストラン、コンサートホールまで備えた開かれた文化複合施設として広く親しまれている。伝統と現代、美術と自然が調和した独自の美術館として、国内外の名品展示から新進作家の企画展まで幅広いプログラムを展開。

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7. Three Shadows Photography Art Centre/三影堂撮影芸術中心

中国初の写真と映像に特化したアートセンター。アイ・ウェイウェイ設計による施設内にギャラリー、暗室、図書館、アーティスト・イン・レジデンスを備え、本格的な研究・教育・展示機能を合わせもつ中国随一の写真芸術拠点として高く評価されている。国内外の現代写真家の展覧会を精力的に開催するほか、蔵書5,000冊を超える専門ライブラリーやワークショップを通じて写真文化の普及にも努めている。2008年には若手写真家の発掘を目的に「三影堂撮影賞(Three Shadows Photography Award)」を創設し、新進作家に発表の機会も提供している。

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8. Taikang Art Museum/泰康美術館

大手保険会社泰康集団が設立した現代美術館で、2003年創設の非営利スペース「泰康空間」の実績を基に開館した。2022年に798 Art District内に一般公開され、近代から現代まで自社で収集してきた多彩な美術コレクションを展示している。館蔵品は1840年代まで遡る歴史的作品から、毛沢東時代のプロパガンダ的な「紅色芸術」、そして現在活躍する新進作家の最先端作品にまで及び、その幅広さが特色とされる。

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9. Long March Space/長征空間

2002年にアーティスト兼キュレーターの魯捷が創設したギャラリー​。延べ2,500平米に及ぶ広大な展示空間を有し、中国現代美術の新たな制作と理論的探求のプラットフォームとして重要な役割を果たしている​。知的かつ文化的な意義の深い作品を意欲的に紹介する方針を掲げ、開廊以来20名以上の作家のキャリア育成に努めてきた​。FriezeやArt Baselなど海外アートフェアにも積極参加し、中国アートの実験的潮流を国内外に発信し続けている。

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10. Triumph Gallery/凱旋画廊

798 Art Districtを拠点とする現代美術ギャラリー。2007年前後の設立以来、中国の気鋭アーティストから中堅・巨匠まで幅広く作品を取り扱い、具象絵画、現代水墨、映像インスタレーションなど多彩な展覧会を開催している。国内のアートフェアに毎回出展するなど積極的な活動を展開し、海外との交流にも力を入れることで中国現代美術の動向を国際社会に発信している。ギャラリー名の「凱旋(Triumph)」が示すように、中国美術の新たな才能を発掘し勝利へ導く意志をもった運営姿勢が特色。

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11. HdM Gallery

フランス人キュレーターのハドリアン・ド・モンフェランによって2009年に798 Art Districtに開設された現代美術ギャラリー​。中国の若手アーティストを中心にキャリア育成と国際発信に努めてきた​。陸超、葉凌瀚、胡为一などギャラリー所属作家の多くは開廊当初から継続的に支援を続けている​。中国とヨーロッパを繋ぐ橋渡し役も担い、西洋コレクターへのアプローチも重視。2024年には開廊15周年を迎え、約400平米のスペースから約700平米の新ギャラリーへと拡張移転した。

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12. SPURS Gallery/馬刺画廊

2005年に北京で創設された中国初期の現代美術ギャラリーのひとつ。長年にわたり、あらゆる世代の中国現代美術を紹介してきた​。1979年の星星画会や無名画会といった地下芸術グループの作品から、85新潮世代、さらには2000年代以降の新世代まで網羅し、中国現代美術史を体系的にたどるような企画を行う。北京と深圳にスペースを構え、国外アートフェア出展や出版活動も活発に行っている。

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13. Beijing Commune/北京公社

2004年にキュレーターの冷林によって798 Art Districtに創立されたギャラリー。2つの展示ホールを備え、絵画や彫刻、写真、映像など多様なメディアの作品を紹介しながら中国現代美術を発信している。開廊当初より宋冬や尹秀珍など実績ある作家の個展を開催し、その活動がニューヨーク近代美術館のプロジェクト招聘へと繋がるなど国際的評価も獲得。1980年代生まれの馬秋莎や趙要といった若手作家にも着目し、彼らをテート・モダンの「No Soul for Sale」へ送り出すなど次世代育成にも積極的。

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14. Hyundai Motorstudio Beijing

韓国の現代自動車がブランド発信と文化交流を目的に2017年、798 Art Districtの旧工場棟を改装して開設。館内では現代美術とテクノロジーを融合した展覧会やプログラムが企画され、AI時代における気候変動を問う「Weather Station」展など、先端的な企画を多く開催。トークイベントや子ども向けプログラムも開催され、来場者が芸術と技術のインタラクティブな体験を通じて未来志向の価値観に触れられる場となっている。

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15. SIMULACRA/擬像画廊

若手キュレーターの周仮によって2020年に設立されたギャラリー。20代~30代の新鋭アーティストを中心に据え、北京のアートシーンに実験精神を持ち込む存在として台頭した。従来の枠組みにとらわれない表現を紹介し、新世代アーティストの活躍の場を広げることを目指している。北京のギャラリー界では比較的新興スペースながら、独自性の高い企画によって急速に存在感を高めている。

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16. WHITE SPACE/空白空間

2004年に798 Art Districtで創設され、2009年に草場地芸術区の約1,500平米のスペースに拠点を拡大した現代美術ギャラリー​。若手アーティストの育成を目的に掲げており、開廊以来、数多くの新進作家のキャリアを国内外で支えてきた​。2021年には北京市順義区に700平米の新スペースを開設し、現在は3つのエリアで展示を行っている​。欧米の美術館と協力して作家の作品を海外会へ紹介するなど、国内外の美術ネットワークを駆使した活動を展開。

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17. CLC Gallery Venture

北京を拠点に活動していたC5art、C-Space、Local Spaceという3つのギャラリーが合同で設立したスペース。メディウムの探究と再発明に着目し​、絵画や写真、映像、インスタレーションなど多岐にわたる実験的表現を紹介するプログラムを展開。特にキャリア初期のアーティストを支援することに注力しており、定期的な企画展の開催や国内外のアートフェアへの出展、国際機関との協働を通じて新進アーティストの作品を広く発信している​。

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18. Macalline Center of Art/美凱龍芸術中心

2022年に開館した、中国の大手家具企業が運営する非営利アートセンター​。世界各地のアーティスト、キュレーター、文化専門家たちが領域横断的に集う場となっている​。開館以来シリーズ企画「Who Owns Nature?」を開催し、人新世における自然と人間の関係を問い直す。急速に変貌する時代に対し芸術がどう応答できるか問うべく、トークイベントや出版、コミッションプログラムなど多角的な企画を展開。

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19. INKstudio

2012年に設立された北京とニューヨークを拠点とするアートギャラリーで、実験的な水墨画をグローバルなアートシーンへ提示することに注力している​。中国本土のみならず台湾や香港、韓国、日本の作品も扱い、戦後の前衛水墨から現代アートまで幅広く網羅。​2012年の創設以来、毎年アーモリーショーやアートバーゼル香港など主要アートフェアに参加し、作品はメトロポリタン美術館やLACMA、香港M+など世界の著名美術館に収蔵されている​。

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20. POSTPOST SPACE

2016年にサンフランシスコで発足したクリエイティブスタジオ、3standardstoppage studioが運営するアートブックやZINE、アパレルを扱うストア。ニューヨークにも店舗「bungee space」を展開。Jiazazhi PressやSamepaperのように現代中国写真を代表するパブリッシャーからApertureやMackなど世界的に知られるパブリッシャーの写真集まで、幅広いアートブックを扱う。店舗では気鋭のブランドやアーティストの展示が行われることも。

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