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市長の座を狙うウフィツィ美術館元館長に左派政治家らが反発。「品のないプロパガンダ」

ウフィツィ美術館の元館長で美術史家のエイケ・シュミットがフィレンツェ市長選に出馬し、6月8日・9日の投票日に向け選挙戦を展開している。しかし、ドイツ生まれのシュミットがイタリア南部の街を中傷したとして、同市の左派政治家から反発の声が上がった。

ウフィツィ美術館の館長を8年務めたエイケ・シュミット。Photo Christoph Sator/dpa/picture alliance via Getty Images

昨年12月までウフィツィ美術館の館長だったエイケ・シュミットは、イタリア国内では右派連合政権を率いるジョルジャ・メローニ首相寄りの人物と見なされている。フィレンツェは歴史的に左派が強い街だが、自称穏健派のシュミットが市長になれば、メローニ首相に有利に働く可能性がある。

シュミットの選挙スローガンは、「フィレンツェ・マグニフィカ(Firenze Magnifica:壮麗なフィレンツェ)というもの。ニューヨーク・タイムズ紙はこれについて、ドナルド・トランプの「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(Make America Great Again)」を彷彿とさせるとしている。

イタリア・ルネサンスの傑作の数々が集るフィレンツェは、近年オーバーツーリズムに悩まされ、観光客の大量流入への懸念が高まっている。シュミットは、公約の1つにフィレンツェ本来の「輝き」を取り戻すことを掲げ、訪問者数の制限をしない代わりに「スケジュール制を組む」と発言。これは、ウフィツィ美術館で入場者数をコントロールするために導入した時間指定予約を思わせる。さらに彼は、市政に民間企業的な経営手法を採用しようとしているのか、次のように主張している。

「重要なのは、(中略)イデオロギーにとらわれず、組織としての基準に従って自治体を運営することです」

市長選の投票は今週末に行われるが、英フィナンシャル・タイムズ紙によると、シュミットの支持率は中道左派の民主党から立候補したサラ・フナロを数ポイント引き離している。しかし、左派政治家たちがシュミットの偏見を非難するなど、選挙戦は終盤に向けて熱を帯びてきた。

その偏見というのは、シュミットの選挙運動用ビラに描かれていた「フィレンツェはトーレ・デル・グレコではない」という一文だ。アートニュースペーパー紙が指摘するように、これはナポリ近郊の街トーレ・デル・グレコに犯罪とマフィアのイメージがあることを暗に示している。

この街の首長であるルイージ・メンネッラは、シュミットの表現に「品のないプロパガンダ」だと反論。中道左派の一員である現フィレンツェ市長のダリオ・ナルデッラも、ソーシャルメディアに投稿したビデオで、シュミットは「常に全ての人を歓迎してきた開かれた街」というフィレンツェの評判を貶めていると非難した。

対するシュミット陣営は、「見境のない攻撃や誹謗」に屈することはないとして、X(旧ツイッター)にこう投稿している。

「他に言い分がなく、パニックに陥っているのなら、それは彼らの問題。私たちは前進するまでです」

(翻訳:石井佳子)

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