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イギリス・ギリシャ間に再び火花。長引くパルテノン神殿彫刻の返還問題は今後どうなる?

イギリスの外交官が19世紀初頭にアテネから持ち帰って以来、大英博物館に収蔵されているパルテノン神殿の彫刻。ギリシャ政府公認のもと持ち帰ったと長らく主張してきた同館は、所有権争いを解決するために「現実的な策」を講じる必要があると発表した。

大英博物館に展示されているパルテノン神殿の彫刻。Photo: Nicolas Economou/Nurophoto via Getty Images

ユネスコ会議において、トルコ代表がパルテノン神殿の彫刻をめぐるイギリスの主張を批判したことを受け、大英博物館は、パルテノン神殿の彫刻をめぐる所有権の争いを解決するには「現実的な策」を模索しなければならないとの声明を発表した。

大英博物館は長い間、19世紀初頭にイギリスの外交官がアテネから彫刻を持ち帰ることをギリシャは許可したと主張してきた。ギリシャの日刊紙イ・カシメリニは、トルコ代表がこの主張の信憑性に疑義を呈したと報じている。

大英博物館の広報担当者はギリシャの放送局SKAI TVの取材に対し、「当館は、パルテノン宮殿の彫刻はアテネに返還されるべきだというギリシャの強い意志を理解しています。その強い感情を理解し、敬意を示します」と答えており、「ギリシャとの新たな関係性の構築」を模索していると語った。

ギリシャと大英博物館の関係性はこの2年間で悪化しており、何世紀にもわたって続いてきたこの問題に対する妥協案の策定は、不安定な社会情勢の影響もあり進展していない。

2023年に大英博物館は、ギリシャ政府の代表者と貸与契約を結ぶ交渉を水面下で進めていたことを発表したが、その数日後、ギリシャのリナ・メンドーニ文化相は、所有権がイギリスにあることを認める契約には応じないと反論。彼女は、古代ギリシャの遺物(パルテノン宮殿の彫刻が展示されないのであれば、それと同等の価値がある遺物)が常にロンドンで展示されるようにする協定を提案した。

一方、イギリスのリシ・スナク首相は同年3月、彫刻をギリシャに返還する計画はなく、イギリスにとって「大きな資産」であると主張。また、ロンドンでスナクとギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相との会談が予定されていたが、訪問した際に彫刻の返還を主張しないという約束をミツォタキスが反故にしたことから急遽会談はキャンセルされ、同年11〜12月にかけて再び緊張が高まった。これに合わせて発表された声明では、ミツォタキスが会談の中止に対して「いらだち」をあらわにしていた。

同年、大英博物館に所蔵されている1000点以上の作品が紛失、あるいは略奪されたものであることが明らかになり、この議論は新たな局面を迎えた。多くの作品は博物館の目録に登録されていなかったり、写真が撮影されておらず、同館は、オークションサイトeBayで一部の作品が売りに出されていることを確認していた。

「私たちの目的はただ一つ」と、メンドーニは語る。「彫刻がアテネに返還された場合、我が国は重要な古美術品の展示を企画して喜びを示す準備はできています」(翻訳:編集部)

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