アート専攻卒業生の高い失業率と低賃金が明らかに。米銀行が最新の労働市場調査を報告
アメリカに12行ある連邦準備銀行の1つ、ニューヨーク連邦準備銀行(NYFED)が全米の大学・大学院卒業者の労働市場を分析した2024年第1四半期のデータを発表した。それによると、美術史、ビジュアル&パフォーミング・アーツなど、アート分野の専攻卒業生は、他分野に比べて失業率が高く、半数以上が大卒であることを必要としない労働状況で働いていることが明らかになった。
ニューヨーク連邦準備銀行(NYFED)がこのほど、全米の大学・大学院卒業者の労働市場を分析した2024年第1四半期のデータを発表した。その中の大学の専攻別労働市場データによると、美術史、ファインアーツ、ビジュアル&パフォーミング・アーツなどアート系分野を専攻した卒業生は、他分野に比べて失業率が高く、その半数以上が大卒であることを必要としない労働状況で働いているなど、労働力が十分に活用されていない「不完全雇用」であることが明らかになった。
大卒者の専攻別労働市場データには、2024年2月時点の専攻科目別の卒業者の失業率や不完全雇用率、キャリア初期と中期の賃金平均値などが記載されている。それによると、美術史専攻は、43.8%が大学院の学位を取得しており、データに掲載されたアート系の専攻の中で最も高い教育水準を持っているにもかかわらず、失業率はデータの中で最も高い8%、不完全雇用率は62.3%だった。
美術史専攻に次いで失業率が高かったのは、ファインアーツ専攻で7.9%。だが不完全雇用率は55.5%と低い割合だ。一方、パフォーミング・アーツ専攻の失業率は5.5%と他ジャンルに比べて低いが、不完全雇用は65.3%で、アート系分野ではトップの割合だった。また、コマーシャルアート&グラフィックデザイン専攻は大学院卒が11.3%と最も低い割合だったが、不完全雇用率は33.7%と最も低かった。キャリア初期の平均年収を見てみると、各専攻はおおむね4万ドル(約650万円)前後。アメリカの新卒者の2024年の平均年収は5万5260ドル(約893万円)なので、それに比べると低い傾向にある。
NYFEDの報告は、アンドリュー・W・メロン財団などが資金提供するアーティスト支援組織「クリエイティヴ・リビルド・ニューヨーク(CRNY)」が2024年5月に発表した調査に続くものだ。同組織は芸術文化部門がニューヨーク経済の7.4%を占めているにもかかわらず、ニューヨーク州で活動するアーティストの大半が経済的不安を経験していることを受けて、経済的に困窮している2400人のアーティストに、無条件で毎月1000ドル(約16万円)を18カ月連続で支給する「Guaranteed Income for Artists」プログラムを開始した。調査はそれに先立って行われたが、アーティストの半数以上の57.3%が、前年の収入が2万5000ドル(約400万円)以下だったと申告し、さらに、回答者の45.5%が単発労働「ギグワーク」や臨時雇用に頼っていると答えた。
CRNYのエグゼクティブ・ディレクターであるサラ・カルデロンは、この調査結果を発表した際に、ハイパーアレルジック誌に次のように語った。
「ほとんどのアーティストには、賃金の補償や有給休暇、手ごろな価格の医療保険、その他の社会的なセーフティネットなど、他ジャンルの労働者に与えられているものは一切ありません。芸術は労働であることを確立する必要があるのです。 その解決策をアーティスト中心に練り、アーティストの生活と生計を向上させなければなりません」(翻訳:編集部)
from ARTnews