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トランスジェンダーのアートと歴史を辿るトルコの展覧会に中止命令。主催者は不服申し立て

トルコで、トランスジェンダーコミュニティのアートと歴史をテーマとした展覧会が当局によって中止された。「一般市民のヘイトをあおる」とした知事の命令だという。

トランス・プライド・パレードを題材にしたビデオ作品のスチル写真。中止された「Turn and See Back」展に出展中だったもの。Photo: Jiyan Andiç

7月16日にアートニュースペーパー紙が伝えたところによると、トルコ当局は「Turn and See Back: Revisiting Trans Revolutions in Turkey(振り返って見てみよう:トルコにおけるトランス革命再考)」と題された展覧会の中止を命じた。知事が「一般市民のヘイトをあおる」としたことが理由とされる。

LGBTQ+がテーマの「Turn and See Back」展が行われていたのは、実業家で慈善家のオスマン・カバラが設立した非営利スペース、デポ・イスタンブール。カバラは、エルドアン政権を揺るがした2013年の反政府デモを資金支援し、16年のクーデター未遂に関与したとして17年に収監された。その後、政府転覆を企てた罪などで2022年に終身刑判決が言い渡されている。

権威主義的かつポピュリスト的なエルドアン大統領は、これまでもLGBTQ+コミュニティへの抑圧を行い、2015年以降はイスラム世界最大のLGBTQ+パレード、イスタンブール・プライドを禁止。LGBTQ+は「社会からの逸脱者」だと否定的な発言をしている。

ほぼ口コミだけで何百人もの来場者を集めた「Turn and See Back」展の共同キュレーター、ジヤン・アンディチは、展覧会の目的はトランスジェンダーコミュニティの人間性を表現することだと強調し、アートニュースペーパーの取材にこう答えている。

「LGBTQ+の人々を『違法』と決めつけるのは、彼らから人間性を奪い、犯罪者にすることを目的としたプロセスの一部にほかなりません。この展覧会が伝えようとしたのは、『私たちは脅威でもなく、変質者でもなく、海外から操られているわけでもなく、ずっとここにいる』ということです」

デポ・イスタンブールは禁止命令に対する不服申し立てを予定しているが、撤回される可能性は低いと見られる。

オンラインアートメディア、アルゴノトラー(Argonotlar)の編集長で、トルコにおける検閲を追求し続けているキュルティギン・カーン・アクブルトがアートニュースペーパーに語ったところによると、トルコ政府は少なくともこの10年間、美術展に対するあからさまな弾圧を加えたことはなく、今回の中止は異例だという。アクブルトはこう説明する。

「トルコの芸術活動では通常、事前に自主規制が行われます。イスタンブール・プライドは監視されているので、たった1回のソーシャルメディアへの投稿であっても、国家による検閲に引っかかってしまいます。(中略)イスタンブール・デポは、オスマン・カバラが関わっていることもあり、特に注視されていました。問題は、こうした展覧会を開催できるような場所が他にあまり残っていないことです」(翻訳:石井佳子)

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