• CULTURE
  • NEWS
  • 2022.02.03

杉本博司の設計が論争の的に。ワシントンの「彫刻の庭」再生計画が決着

ワシントンD.C.にあるハーシュホーン博物館と彫刻の庭の再生計画が承認された。周囲より低い場所にある彫刻の庭については、現状維持派と博物館側が過去2年にわたって論争を繰り広げてきたが、ようやく決着した形だ。

ハーシュホーン博物館と彫刻の庭(ワシントンD.C.) Courtesy Wikimedia Commonsハーシュホーン博物館と彫刻の庭(ワシントンD.C.) Courtesy Wikimedia Commons

2021年12月2日、連邦政府の首都計画委員会(National Capital Planning Commission、以下NCPC)が委員6人の満場一致で承認したのは、建築の分野でも活躍している日本人アーティスト、杉本博司の設計による予算6000万ドルのプロジェクトだ。2018年、ハーシュホーン博物館は彫刻の庭の改修に杉本を指名。杉本の設計には、屋外ギャラリーの新設、高齢者や障害者にも配慮した使いやすさの向上、庭の中央で周囲の風景を映し出す反射池の拡張などが含まれる。22年秋に着工し、24年のハーシュホーン開館50周年記念式典までに完成させる計画だ。

2021年7月、NCPCは賛成5票、反対2票で計画を承認したが、建築史家たちの意見により進行が滞っていた。その主張は、建築家ゴードン・バンシャフトが、円筒形をした博物館のモダニズム建築を補完する庭を1974年に設計した際の、ブルータリズム様式に基づく構想が根本的に破壊されるというものだ。また、1981年に景観設計家のレスター・コリンズが行ったリノベーションも、杉本によるデザイン変更で損なわれるのではないかと危惧する声もあった。コリンズは桜の木などの植物を植え、夏の暑い時期に見学者が砂利の敷き詰められた散策路を快適に歩けるようにしている。

杉本は2021年1月にアートニュースペーパー紙の取材に答え、「今回の改修は、ゴードン・バンシャフトというアーティスト、レスター・コリンズというアーティストに続き、私が3人目のアーティストとして関わります。つまり、私が占めるのは全体の3分の1です。歴史と折り合いをつけるという、私にとっては新しい仕事であり、非常に重要で興味深いプロセスです」と述べている。

過去30年間、彫刻の庭にはインフラの老朽化と、ナショナルモール(ワシントンD.C.中心部にある国立公園。複数の博物館や美術館、国会議事堂やワシントン記念塔などが立ち並ぶ)で目に入りにくいという悩みがあった。彫刻の庭の見学者は年間15万人で、100万人いるハーシュホーン博物館の来館者のごく一部にとどまっている。多くの人は、アルベルト・ジャコメッティオーギュスト・ロダンヘンリー・ムーアといった名だたるアーティストによる傑作を見逃したことに気づかずにいるのだ。

杉本の新たな設計は、人々を彫刻の庭に誘導することを目的としている。見晴台やナショナルモールからのスロープが新設されるほか、博物館と庭を結ぶ地下トンネルも現代的に修復される。彫刻群には新たに現代の作品が加えられる予定で、車いすでのアクセスや洪水対策も改善される。また、屋外ギャラリーはパフォーマンスや展覧会の会場としても使われるようになる計画だ。

NCPCは2020年12月に、代替案を検討するよう博術館に勧告していた。杉本の設計は、老朽化した内部の仕切り壁を石積みの塀で置き換え、博物館外壁の窓およびバルコニーと相似形になるよう意図された反射池を拡大するというものだった。これに対し、博物館が示した案は、内部の仕切り壁をバンシャフトの設計にマッチするコンクリートで再建し、庭の南側にパフォーマンス用舞台を備えた補完的な池を新たに建設するというものだ。

一連の経緯に関し、ハーシュホーン博物館のメリッサ・チウ館長は声明の中で、「彫刻の庭に深い関心を寄せる多くの人たちの意見を聞き、取り入れることができた健全な公開プロセス」だと称賛している。

しかし、この決定を批判する声も上がっている。非営利団体カルチュラル・ランドスケープ・ファンデーションのチャールズ・A・バーンバウム理事長は、声明で次のように述べている。「ハーシュホーンの彫刻の庭は、米国有数の重要性を持つ景観設計作品であり、首都ワシントンにおける貴重なモダニズムデザインでもある。しかし、デザイン変更に関する本日の決定は、管理責任者や監督機関が、彫刻の庭には建築物と異なる基準を押し通し続けることを示している」(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2021年12月3日に掲載されました。元記事はこちら

  • ARTnews
  • CULTURE
  • 杉本博司の設計が論争の的に。ワシントンの「彫刻の庭」再生計画が決着