ジョルジオ・アルマーニやキム・ジョーンズらファッションデザイナー13人が推薦する、世界の美術館
昨今のコラボブームで距離がより近くなったアートとファッション。しかし、ファッションデザイナーにとって、アートはずっと創作の糧であり続けている。では、彼らはどんな美術館を愛しているのか、13人のデザイナーの答えを紹介しよう。

ルーブル美術館では今、同館の長い歴史で初めてファッションをテーマとした展覧会、「LOUVRE COUTURE: Objets d'art, objets de mode(ルーヴル・クチュール:アートとファッション)」が開催中されている(7月21日まで)。ここで示されているのは、クリエイターにとって美術館がムードボード(*1)のような役割を果たし、インスピレーションの源となっていることだ。
*1 デザインの方向性を決める叩き台として、写真やイラスト、テキスト、カラーサンプル、素材見本などをコラージュのように1つの画面にまとめたもの。
そこでファッション業界誌のWWDは、最近ヨーロッパで開催されたメンズウェアやオートクチュールのショーで顔を合わせたデザイナーたちに、世界で一番好きな美術館はどこかを質問。彼らは有名美術館から隠れ家的な名所まで、さまざまな展示施設の名を挙げてくれた。
ジョルジオ・アルマーニ:ブレラ絵画館(ミラノ)、21_21 DESIGN SIGHT(東京)

「私にとって特別な美術館は2つあります。1つは故郷であるミラノのブレラ宮殿内にあるブレラ絵画館。建築家ピエルマリーニが設計したブレラ宮殿には、植物園や天文台、美術アカデミーも併設されています。絵画館にはカラヴァッジョやティントレット、ラファエロ、マンテーニャ、ピエロ・デッラ・フランチェスカといった偉大な画家たちの傑作が並び、フランチェスコ・アイエツの有名な《接吻》も展示されています。貴族的なエレガンスと庶民的な親しみやすさが混じり合い、ミラノらしい魅力を色濃く残すブレラ地区にある絵画館とその宝物は、私にとって隣人のような存在です」
「もう1つは東京にある21_21 DESIGN SIGHT。三宅一生が構想したこの美術館の建物は、文化複合施設アルマーニ/テアトロの設計者でもある安藤忠雄が手がけています。21_21 DESIGN SIGHTは、建物のほとんどが地下に埋まったくさび形のユニークな設計で、非常に魅力的です。ここでは日本人ならではの発想で企画された、デザインやアートの素晴らしい展覧会を見ることができます」
マリア・グラツィア・キウリ(ディオール):ローマ国立近代美術館(ローマ)、ブルックリン美術館(ニューヨーク)

「私のお気に入りの美術館は、ローマ国立近代美術館です。若い頃は学校帰りによく寄っていて、この美術館の館長で魅力的な女性だったパルマ・ブカレッリに憧れていました。もう1つは、ニューヨークのブルックリン美術館です。成人してから大いに影響を受けてきた場所で、今もそれは変わりません」
アンソニー・ヴァカレロ(サンローラン):ニューヨーク近代美術館(ニューヨーク)

「お気に入りはニューヨーク近代美術館(MoMA)です。ニューヨークに行くたびに面白い展覧会に出会えるので。パリにも素晴らしい美術館がいくつもありますが、地元だとなぜか滅多に行かないんです。ニューヨーク滞在は、カルチャーや見逃せない展覧会を意識する良いきっかけになります」
リック・オウエンス:テート・モダン(ロンドン)

「テート・モダンです。展示室のプロポーションやスケールの大きさ、建築の素材、古い建物をうまく今の時代にアップデートしているところに惹かれます。近代的でインダストリアルなスケール感が好みです」
ジャンバティスタ ヴァリ:キャリコ・テキスタイル(アーメダバード)、ローマ国立博物館マッシモ宮(ローマ)

「インドのアーメダバードにあるキャリコ・テキスタイル博物館と、ローマ国立博物館マッシモ宮のどちらかですが、1つだけ選ぶのは難しい。私の中では常にこの2つが対話をしているのです」
ピーター・コッピング(ランバン):ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン)

「ヴィクトリア&アルバート博物館は、今でも訪れるたびに魅了されます。少し前にも、有名な彫刻や建造物の石膏模型が並ぶキャストコートとイギリスの展示室を見てきました。まず目に飛び込んでくるのがヘンリー8世のライティングボックス(持ち運びできる筆記机)だなんて、これほど素晴らしいことはありません」
アレクサンドル・マテュッシ(アミ パリス):ディア・ビーコン(ニューヨーク)

「とても広くて、とても静かなディア・ビーコンが好きです。場所はニューヨークから電車に乗って1時間半ほどの小さな街で、駅から少し歩いたところに美術館があります。本当に広いので、これまで2、3回行ったことがありますが、いつもほとんど人に会いません」
ブルネロ・クチネリ:ルーブル美術館(パリ)、ウフィツィ美術館(フィレンツェ)、アテネ国立考古学博物館(アテネ)

「ルーブル美術館やウフィツィ美術館が、美しく、唯一無二の存在であることには疑いの余地がありません。ただ、自分が受けてきた教育やギリシャの古典文化に対する愛着からすると、アテネ国立考古学博物館を推したいと思います」

アレッサンドロ・サルトリ(ゼニア):国立ソフィア王妃芸術センター(マドリード)

「パブロ・ピカソの《ゲルニカ》がある、マドリードの国立ソフィア王妃芸術センターです」
ノルベルト・スタンフル(ブリオーニ):ローマ国立博物館アルテンプス宮(ローマ)
「一番好きなのはローマにあるアルテンプス宮(ローマ国立博物館の展示スペースの1つ)です。ローマやギリシャ、エジプトの古代美術を展示している洗練された博物館で、ナヴォーナ広場に隣接する15世紀の邸宅の中にあります。どの展示室も混雑しておらず、観光客はほとんどいません。ローマの隠れた宝石のような場所です」
キム・ジョーンズ:ザ・チャールストン(イースト・サセックス)
「身びいきになってしまいますが、私がバイスプレジテントを務めているザ・チャールストン(*2)です。私にとって常にインスピレーションを与えてくれる場所で、ここに私のコレクションを寄贈し、ヴァージニア・ウルフ図書館も作るつもりです。チャールストンの運営団体が探しているブルームズベリー・グループ関連の作品を見つけるため、サザビーズにも手伝ってもらっています。あちこちで話をしていると、意外なところから情報が得られるので」
*2 イギリス南東部イースト・サセックスにある展示施設。画家のヴァネッサ・ベルやダンカン・グラントらの邸宅兼アトリエだった場所で、かつてブルームズベリー・グループ(20世紀前半のイギリスの文化人サークル。中心メンバーは作家のヴァージニア・ウルフ、E・M・フォースター、経済学者のジョン・メイナード・ケインズなど)が集っていた。近くのルイスという町にもう1つ展示施設がある。
アデジュ・トンプソン(ラゴス・スペース・プログラム):ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン)
「私は装飾美術に目がないので、一番好きなのはヴィクトリア&アルバート博物館でしょうか。あとはパリの装飾芸術美術館も大好きです。服飾に関する職人技、18世紀や19世紀の手仕事を間近で見られる展示施設にはとても惹かれますし、勉強になります。ファッションジャーナリストの故アンドレ・レオン・タリーは、素晴らしいと思えるものにたくさん触れれば、表現のボキャブラリーが増えると話していました。そういった意味で、私は家具や織物、絵画など、さまざまな装飾美術や職人技が見られる場所が好きなのです。また、それ以外の分野の芸術や現代アートが見られる美術館も好きです。美しいものに触れ、そこから何かを吸収したいと常に飢えているので」
チョン・ウクジュン(Juun.J):サムスン・リウム美術館

チョン・ウクジュンがお気に入りとして挙げたのはサムスン・リウム美術館。ソウルの漢南洞(ハンナムドン)にあるこの美術館は2つの建物から構成されており、それぞれ韓国の古美術と現代アートが展示されている。ウクジュンはこの美術館を「とてもポエティックな場所です」と表現した。(翻訳:野澤朋代)
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