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ルーブル美術館史上初! 歴史的なアートと現代ファッションの関係を探る企画展を2025年に開催

近年、著名なファッションブランドやデザイナーとアートの関係をテーマとした展覧会が増えている。そんな中、膨大な歴史的作品を所蔵するルーブル美術館が、初のファッション展を開催することが分かった。同館で装飾美術部門のディレクターを務めるオリヴィエ・ガベに、本展の意図などについて話を聞いた。

ルーブル美術館のグランド・ギャラリーで18世紀のフランス絵画を鑑賞する女性(1993年撮影)。Photo: Gamma-Rapho via Getty Images

現代のファッションは歴史的美術品から影響を受けている

2019年に亡くなったファッションデザイナー、カール・ラガーフェルドは、18世紀の室内装飾に目がなく、ルーブル美術館を頻繁に訪れては、豪華な家具や漆塗りの屏風といった所蔵品を眺めて記憶に留め、自らのインスピレーション源としていた。

そのラガーフェルドがシャネルのために手がけたオートクチュールやメティエダール(芸術的な手仕事)のコレクションが、ルーブル美術館で開かれる展覧会に展示されることになった。2025年1月に開幕するこの展覧会は、ルーブル美術館初のファッションをテーマしたもので、ビザンツ帝国の時代からフランス第二帝政期までの貴重な所蔵品が、いかにデザイナーたちのイマジネーションを刺激してきたか、そして今もその影響が続いているかに焦点を当てる。

ルーブル美術館装飾美術部門のディレクター、オリヴィエ・ガベは、ファッション業界誌WWD(*1)の独占インタビューで、このプロジェクトの狙いを次のように答えている。

「ルーブル美術館が、所蔵品とファッションとの関係をテーマとした展覧会を開催するのは今回が初めてです。この展覧会では、なぜ美術館がファッションデザイナーの関心を引く重要な存在なのかを考察し、中でもルーブル美術館の所蔵品が彼らのコレクションにどのような影響をもたらし、刺激を与えてきたのかを解き明かします」


*1 US版ARTnewsとWWDはともにペンスキー・メディア・コーポレーションの傘下にあるメディア。

このファッション展(タイトル未定)の会期は、2025年1月24日から7月21日とされている。65点前後の衣服と30点のアクセサリーが約900平方メートルのスペースに並ぶ予定で、ルーブル美術館所蔵の膨大な装飾美術品からは、甲冑、陶磁器、象牙、タペストリー、科学器具、宝飾品、青銅器、ステンドグラス、銀製品、ナポレオン3世の豪華な居室などが展示される。

1893年に正式に設立されたルーブルの装飾美術部門は、2万点にのぼる所蔵品のおよそ3分の1あまりを常時展示している。しかし、それら所蔵品の中にファッション関連のものは存在していないため、館内から展示する衣服は聖霊騎士団の豪華なマント数着のみ。それ以外のファッションの展示品は、フランス、イタリア、イギリス、アメリカ、日本のデザイナーやブランドから貸し出される。ちなみに、フランス国家のファッションコレクションはパリ装飾美術館が所蔵しており、前出のガベは2022年にルーブル美術館に移るまでの9年間、同館の館長を務めていた。

ガベは、今回の展示で1960年代から今日までの「比較的近年の作品」にスポットライトを当てる。現代のファッションがいかに歴史に根ざしているか、デザイナーたちが歴史的な美術品や装飾品からシルエット、色、装飾に関する着想を得ているかを示したいと考えたからだ。

たとえば、ルーブルの甲冑コレクションは比較的小規模だ。しかし、防御のために着る鎧に身体の輪郭を強調したり誇張したりする一面があることが、パコ・ラバンヌ、ティエリー・ミュグレー、そしてバレンシアガのデムナ・ヴァザリアなど、数多くのデザイナーに影響を与えてきたことを示すだけでも1つの展覧会が開けるくらいだとガベは言う。実際、バレンシアガのアーティスティック・ディレクターを務めるデムナは、2023-24年秋冬オートクチュールコレクションのショーを、鎧を着けたジャンヌ・ダルクを思わせるメタリックなドレスで締めくくっている。

ファッションデザイナーが美術館にもたらす恩恵とは

このファッション展はまた、ルーブル美術館の「古い時代の所蔵品」を「これまでとは違った層」の観客に見てもらう機会となるとガベは期待している。特に若い世代にとって、ルーブルのコレクションは親近感がわかないために敬遠されがちだとして、ガベはこう説明する。

「ファッションデザインは、さまざまな世代と美術館をつなぐすばらしい架け橋になるでしょう。古いものをフレッシュかつ現代的に、生き生きと伝えられるのがファッションなのです。ルーブルの所蔵品を、新しい視点で楽しむ方法を提供したいと思っています」

歴史的な所蔵品がファッションに与える影響は、直接的で具体的なこともあれば、いくつもの要素をコラージュしたようなケースもある。ガベは展覧会のキュレーションを担当するにあたり、どちらの場合も、その関係性が一目で分かるような展示を心がけたいとしている。

彼はまた、美術館からインスピレーションを得た多くのファッションデザイナーやクリエイターが、美術館の魅力を伝えるアンバサダーとなり、キュレーターや美術史家とは異なる視点や人々とのつながりをもたらしていると指摘。そうしたファッション界の貢献を称えることも、1月からの展覧会が意図するところだと語る。

ガベによると、ファッションデザイナーが興味を持つ芸術分野の幅広さは驚くほどだという。たとえば、アーデムのデザイナー、アーデム・モラリオグルは歴史的な織物に、自身のブランド、JWアンダーソンとロエベのクリエイティブ・ディレクターを務めるジョナサン・アンダーソンは陶器や工芸品に、そしてディオールのアーティスティック・ディレクターであるマリア・グラツィア・キウリはイタリアのルネサンス芸術に、故アレクサンダー・マックイーンはルネサンス期のタペストリーに、そしてクリスチャン・ルブタンはウェッジウッドや国立セーブル製陶所の陶器、それに父親が家具職人であったことから金箔を施した家具に深い関心を寄せているという具合だ。

展覧会では、舞台装飾などを多く手がけるナタリー・クリニエールが空間デザインを担当し、常設展示室に衣服やアクセサリーが散りばめられる。クリニエールはこれまでも、2017年に行われたディオール創業70周年の大回顧展をはじめ、装飾美術館の展覧会で何回かガベに協力している。

また、フランスのファッションブランド、カルヴェンの創始者で、ルーブル美術館の支援者でもあったマダム・カルヴェンへのオマージュとなる展示も計画されている。マダム・カルヴェンは夫とともに、18世紀の家具や装飾品の大規模なコレクションをルーブルに寄贈した。

総勢約40人のデザイナーと十数世紀にわたる美術品の協演

ガベが意図するところは、シルエットと身体、歴史とインスピレーション、ファッションとクラフト、そして世界中から取り入れた要素の融合など、「さまざまな関係性を盛り込んだ展覧会」を実現することで、前出のラガーフェルドのほか、ドルチェ&ガッバーナやヨウジ・ヤマモトの作品も展示されるという。

「もしかしたら若い世代のファッションデザイナーもサプライズで参加するかもしれません。ファッションとアートの対話を提案するにあたっては、オープンな姿勢が必要ですから」

近年、ファッションをテーマとした企画展が増えているが、ルーブルの展覧会はその流れを加速させそうだ。たとえば、2022年にはイヴ・サンローラン創設60周年を祝うため、故サンローランの作品が、その着想源となったアート作品とともにパリの主要美術館6館で展示された。また、最近の展覧会ではドレス以外の展示も見られる。装飾芸術美術館で行われたイリス・ヴァン・ヘルペンの回顧展では、化石、骨格標本、前衛芸術作品、顕微鏡のほか、さまざまな道具やインスタレーションが展示された。

ルーブル美術館のファッション展は、1000年以上にわたる歴史的所蔵品の厚みと、40人近いデザイナーの作品を集めるという点で、1人のデザイナーの作品を見せることが多かった従来のファッション関連の展覧会とは一線を画すものになると、ガベは胸を張る。また、ルーブルの所蔵品を出発点にファッションとのつながりを示す企画であり、その逆ではないと強調した。

「今日、ファッションは他の分野と関連づけて紹介されることで、より刺激的なものになるはずです。ファッションデザイナーと話すと、ファッションだけではなく、アートや工芸、写真も話題に上ります。ファッションが他のクリエイティブ分野との関連をどう自己認識するかという点において、今まさに大きな転換点にあるのです」

こうした新しい視点については、ルーブル美術館の各分野の専門家に展覧会カタログへの執筆を依頼するとガベは言う。

「美術史家や美術館のキュレーターにファッションへの思いを語ってもらう試みは、きっと興味深い結果をもたらしてくれるでしょう」(翻訳:清水玲奈)

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