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  • 2022.03.17

「コラージュとはジャズである」黒人コラージュ作家紹介のインスタが書籍化

インスタグラムで@blackcollagistsというアカウントが立ち上げられたのは2020年。このアカウントは当初、ボルチモア在住のキュレーターで美術評論家のテリ・ヘンダーソンが、仕事のメモ代わりとして自分の考えを整理するのに使っていた。

ナンシー・B・プリンス《CELESTIAL HARVEST(天空の収穫)》(2021) Courtesy the artistナンシー・B・プリンス《CELESTIAL HARVEST(天空の収穫)》(2021) Courtesy the artist

ヘンダーソンは当時、コレクターのダグ&ローリー・カニエ夫妻から、黒人アーティストのコラージュ作品の管理・収集を任されていた。同夫妻は、1978年から400点近い作品を集め、カニエ・コレクションとして所有している。

ヘンダーソンは、@blackcollagistsのアカウントに自分が面白いと思った作品や、もっと知りたいと思ったアーティストの作品を投稿。やがてフォロワー数は増え始め、アーカイブされる作品数も増えていった。現在このアカウントは、ヘンダーソンが個人で運用している。

フォロワー数が6000人を超え、世界中の新進気鋭の黒人コラージュ作家を紹介している同アカウントの成功を記念して、ヘンダーソンは近頃『Black Collagists: The Book(黒人コラージュ作家:ザ・ブック)』(Kanyer Publishing)を出版。若手からベテランまで、さまざまなスタイルでコラージュを制作する54人の黒人コラージュ作家を紹介している。

その中には、ピーター・ウィリアムズ、セイディー・バーネット、ヤニック・ロウリー、ジェシー・L・フリーマン、ジョン・C・フィールズなどがいる。また、ジャスティン・スミス、ローリー・カニエ、イェセニア・ハンター、ダニエル・カンターらが執筆したコラージュについてのエッセイも掲載されている。

この本は、ブラック・コラージュの伝統が今も健在だということを世に知らしめるものだ。作品の中では色彩が飛び交い、ギザギザの切り口は質感と奥行きを与え、破れや裂け目は隠れ家のような印象を与える。ヘンダーソンは本書の序文にこう書いている。「黒人のコラージュ作家の声は、あまりにも長く周縁化されてきた。その声を広く知らしめ、その声のボリュームを上げるのが私の役目だと考えている」

ARTnewsはヘンダーソンにインタビューを行い、この本やブラック・コラージュの伝統、そしてコラージュ作品に対する思いを聞いた。

──黒人コラージュアーティストの作品選定に携わり、本にまとめることになった経緯を教えてください。

テリ・ヘンダーソン:2020年に、ワシントンD.C.在住のコレクター、カニエ夫妻の依頼で黒人作家によるコラージュ作品のセレクションを手伝うことになったんです。予算をもらった私は、地元のボルチモアでコラージュを制作しているアーティストの調査を開始しました。@blackcollagistというインスタグラムアカウントを作ったのは、集めた資料を記録しておくためで、ムードボード(*1)のように使っていました。

*1 アイデアやコンセプトを表す画像等の資料を集めてコラージュしたもの。主にデザイン関連分野で認識を統一するためなどに使われる。

インスタでは週替わりで新進アーティストを取り上げ、金曜日か土曜日には、ミカリーン・トーマスやデリック・アダムスのようなベテラン作家、そしてロメール・ベアデンのような歴史的なアーティストの作品を投稿していました。そのうち、このアカウントは単なる記録を超えたものになっていったんです。

でも、誰もがインスタグラムをやっているわけではありません。ソーシャルメディアを使わない人もいるし、スマホを持っていない人もいる。インターネットに接続されていない人も世界中にいます。では、どうすればこのプロジェクトの目的や、作品そのものについて広く知ってもらえるかと考えて思い至ったのが書籍でした。

本のように物理的に触れられるものは重要です。昨日、アーティストのジェシー・フリーマンが、この本を手にした彼の祖母の写真を送ってくれたのですが、それを見て私は泣いてしまいました。それこそが私が目指していたことだったので。

アドルファス・ワシントン《The Confidant at Gs Barbershop(ジーズ・バーバーショップの親友)》(2021) Courtesy the artistアドルファス・ワシントン《The Confidant at Gs Barbershop(ジーズ・バーバーショップの親友)》(2021) Courtesy the artist

──本の序文で、こうしたコレクションをキュレーションするには、適切な問いを立てる必要があると書かれていますね。その問いとはどのようなものだったのでしょうか。

今生きている黒人アーティストで、コラージュ作品を作っているのは誰か? 収集されるべき作品を作っているアーティストは? また、収集とは別に、この本で取り上げたいのは誰なのか、どのアーティストの仕事に光を当てるべきなのかということです。

もし、図書館の黒人関連書籍のコーナーで、黒人のアートシーンで現在コラージュを作っているのは誰かと尋ねられた人がいたとしたら、この本を取り出して、「この人たちですよ」と伝えてくれたらいいな、と。

ジェシー・L・フリーマン《Charade Pt. 2(シャレード・パート2)》(2020) Courtesy the artistジェシー・L・フリーマン《Charade Pt. 2(シャレード・パート2)》(2020) Courtesy the artist

──この本の中でお気に入りの作品はどれですか。

カラ・ウォーカーの作品を掲載できたことは、今でも信じられません。彼女は本の冒頭に作品を載せることを快諾してくれました。また、オークランドを拠点に活動しているセイディー・バーネットは大学生の頃からかれこれ10年以上ファンなんです。彼女の作品は、めりはりのある色彩で、とてもゴージャス。また、ジョン・C・フィールズはニューヨークの元弁護士で、コロナ禍の発生以降にコラージュ制作を始めています。絵画のように美しいアナログな作品で、ワインのラベルにもなっていますが、とても独創的です。

──デラノ・ダンの作品《It Doesn't Really Matter(どうでもいい)》は特に印象的で、この本であなたが探求しているテーマへの鮮烈な導入になっています。掲載作品はどんなプロセスで選ばれたのでしょうか。また、この本で伝えたいことは何ですか。

デラノ・ダンの作品であなたが感じたような感覚を、読者に伝えたいと思っています。それが何なのかはうまく説明できないですが。この本はアルファベット順で構成されているので、作家の並びは予想がつきます。なので、本をめくりながら手を止めて、「この作家についてもっと知りたい」と思ってもらえるよう工夫をしました。

誰もがこの本を最初から最後まで、あるいは一気に読むわけではないことは分かっていますし、それは私の意図するところでもありません。手に取ってゆっくり眺め、そして本棚に戻す。そんな時間を持ってほしい。スマホやインスタグラムのことはしばらく忘れてね。そして、再び本を開く時、それまで気づかなかった何かを発見してほしいんです。

ヤニック・ロウリー《Till Its Gone(それがなくなるまで)》(2021) Courtesy the artistヤニック・ロウリー《Till Its Gone(それがなくなるまで)》(2021) Courtesy the artist

──キュレーターのジャスティン・スミスは序文の中で、「ブラック・コラージュは、視線を遮り、新たな枠組みを切り開く視覚的周波数である」と書いています。非常に印象深い文章ですが「視覚的周波数」という言葉について、あなたはどう捉えていますか。

ジャスティンの序文に関しては、面白い経緯があるんです。もともとエッセイ欄に掲載するために書いてもらったのですが、一読して、私はその原稿を編集チームに聞いてもらうために読み上げることにしました。巻頭で説明したかったこと、本の内容やミッションについて私が感じていることを、彼が正確に理解してくれていたからです。

私はジャスティンに直接会ったことはなく、Zoomでしか話したことはないのですが、それでも彼は、なぜ私がこの本に取り組んだのかを完璧に理解してくれた。そして、本の中に登場するアーティストたちを突き動かす原動力を汲み取ってくれたのです。

──本を開いた時、その周波数はどのように見え、どんなふうに感じられ、どんな匂いがするかと聞かれたら、どう説明しますか。

文字通りの意味でも比喩的な意味でも、動いているように感じますね。そして、スピリチュアルな感じがする。色に例えるとしたらネイビーでしょうか。それをうまく表現する言葉が出てきませんが、神聖なものとつながっているような感覚です。それは、単に教会に行くというような意味ではなく、「私たちみんなを結び付けている何か」「私たちみんなに力を与えてている何か」という神聖さです。とにかく、この本に関わってくれた人たち全員からインスピレーションを受けましたし、参加してくれたことを光栄に思っています。それがなかったら、この本を作ることはなかったでしょう。

ジャスティンがいつも話していることで、私もそれについて書いたことがあるのですが、コラージュというのはジャズみたいなものなんです。彼の言う視覚的周波数とは、リミックスであり、要素を切り取る感じで、シュールでもある。それは、新しいシュルレアリスム、スピリチュアルなシュルレアリスム、アフロ・シュルレアリスムと言えるかもしれません。画家の仕事に感動を覚える人、写真を愛する人もいますが、私にとっての専門分野はコラージュです。そうなったことにとても感謝しています。(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年2月28日に掲載されました。元記事はこちら

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