征服王ウィリアムを描いた「バイユーのタペストリー」の断片をドイツで発見。ナチス親衛隊が関係か

11世紀に制作されたバイユーのタペストリーの断片が、北ドイツで見つかった。ノルマンディー公ウィリアムのイングランド征服を描いたタペストリーの大部分は、フランスが所蔵している。

バイユーのタペストリーの32番目の場面には、ハレー彗星を見上げる男たちが描かれている。Photo: Courtesy Wikimedia Commons

1066年のノルマンディー公ウィリアムによるイングランド征服の模様を描いた11世紀のタペストリーの断片が、ドイツ北部シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州の公文書館で見つかった。3月4日付の豪キャンベラ・タイムズ紙が報じた。

現在フランス・ノルマンディー地方のバイユー・タペストリー博物館に展示されているのは68メートルほどで、幅約70センチメートルの布のうち絵柄面は約50センチメートル。そこには、中世にバイキングなどが使用したロングシップと呼ばれる船での航海や騎馬の長い隊列、盾や紋章、奇妙な生き物との遭遇、戦いの場面などが描かれている。

麻の布に刺繍を施したこのロマネスク様式の傑作は、アングロ・ノルマン芸術の中でも特筆すべきものとして、2007年にユネスコの世界記憶遺産に登録された。

ノルマンディー公ウィリアムは、1066年にイングランドへ侵攻。同年12月25日に戴冠式を行い、ノルマン朝ウィリアム1世となった。征服王とも呼ばれるウィリアム1世は、中世の西欧世界で最も強大な君主の1人と考えられている。

シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州公文書館の発表によると、タペストリーの断片は同地の高名な繊維考古学研究者、カール・シュラボウ(1891-1984)の遺品から見つかった。シュラボウは、第2次世界大戦中の1941年、ドイツ人科学者チームの一員として、バイユーのタペストリーを再測定するようアドルフ・ヒトラー率いるナチス親衛隊(SS)から命じられたとされる。断片は、その過程でタペストリーの裏側から剥がされたという。

公文書館は3月25日に記者会見を開き、今回の発見の詳細を説明する予定。また、バイユーのタペストリーはフランスの文化財であるため、この断片は今年中にフランスに返還される。

なお、フランスのバイユー・タペストリー博物館は、2025年8月31日から約2年間、大規模改修と保存プロジェクトのために閉鎖され、その間タペストリーは非公開となる。(翻訳:石井佳子)

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