2025年のプリツカー賞は中国の建築家、劉家琨が受賞。「水のような存在」を理想に、過去と現在を融合
「建築界のノーベル賞」として知られる国際的建築賞、プリツカー賞。その2025年の受賞者が、中国人建築家の劉家琨(リウ・ジャークン)に決まった。「古典的な中国建築の現代的な解釈」に基づき、都市生活のさまざまな要素を繊細なバランスで統合するアプローチなどが評価された。

中国・成都を拠点に活動する建築家、劉家琨(リウ・ジャークン)が、建築界で最も権威あるプリツカー賞の2025年の受賞者となった。地域の歴史や文化を尊重した繊細な設計アプローチで知られる劉は、特に出身地である四川省の伝統と素材に根ざした作品を数十年にわたり手がけている。なお、中国人建築家の受賞は、2012年の王澍(ワン・シュウ)に続いて2人目。
プリツカー賞の審査員団は、「中国の伝統をノスタルジーに浸ることなく、革新のためのバネ」として利用し、歴史を記録するのみならずインフラや景観、公共の場となる空間を作り上げたとして劉を称賛。美術館、大学から都市計画に至るまで、現代中国建築のモニュメンタリズムを排し、日常生活のリズムに静かに溶け込むような建築が高く評価された。
それを象徴するのが代表作の1つである成都のウェスト・ヴィレッジだ。5階建てのこの複合施設は縦に重なった複数の街区として機能し、屋外広場、ショップ、レストラン、スポーツ施設などを歩道とスロープでつないだダイナミックな立体公共空間になっている。2015年にオープンしたこの施設は大人気となり、1日に9000人近い人々が屋上のプロムナードに押し寄せたため、当局が一時的に立ち入りを禁止するほどだった。英ガーディアン紙はこれについて、劉の建築が一時「成功の犠牲者」となったと書いている。
劉の建築はまた、社会的・環境的な問題にも深く関わっている。その代表例が、壊滅的な被害をもたらした2008年の四川大地震を受けて生産し始めた「再生レンガ」だ。これは瓦礫を再利用し、地元産の小麦繊維とセメントで補強したもの。従来よりも強度や経済性に優れたこのレンガは、被災地の復興に再利用されただけではなく、その後の建築物にも用いられている。
そして、四川省南部の旧跡である二郎鎮天宝洞区の改修(2021年)や、杭州の製鉄所跡地45ヘクタールを公園として再生させる最近のプロジェクトにも、過去と現在を融合させる彼の哲学が反映されている。劉は自らについてこう語る。
「私は水のような存在でありたいと思っています。自分の形を固定せず、その場所に染み込んでいくような存在に」
(翻訳:石井佳子)
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