トランプの大統領令に米芸術団体が真っ向勝負。助成金申請時の「反トランス宣誓」一時撤廃を勝ち取る
ドナルド・トランプが就任直後に、性別は男性と女性の2種類しかないことを認めるよう要求した大統領が発令されたことを受け、全米芸術基金では「ジェンダー・イデオロギー」を促進しないことを助成金申請者に宣誓させていた。これを受け米自由人権協会が訴訟を起こした結果、誓約書に署名することなく助成金に申請できるようになった。

全米芸術基金(National Endowment for the Arts=NEA)は、助成金申請者に「ジェンダー・イデオロギー」を推進しないことを宣誓させる大統領令を一時的に無効化することの合意を得た。これは、ドナルド・トランプが就任した当日に発令された大統領令が、言論の自由を侵害するものであると主張した米自由人権協会(ACLU)が、複数の芸術団体を代表して起こした訴訟の末に実現したものだ。
アーティストは現在、物議を醸した誓約書に署名せずに助成金に申請できるが、ジェンダー・イデオロギーを推進するとみなされた取り組みを排除するという制限は撤廃していない。この訴訟は現在も係争中で、助成金申請の最終締め切りである3月24日までに、この制限を完全に撤廃するための仮処分命令をACLUは要請している。次の審問は3月18日に行われる予定だ。
今回の訴訟の争点となっているのは、ジェンダーは男性と女性の二つだけであるとすることや、ジェンダー・アファーミングケア(トランスジェンダーの人々に対する身体的・精神的健康状態の診断)への資金提供の中止を求める大統領令14168号だ。NEAは、この大統領令を助成金交付の規則に組み込み、申請者に対して、公的資金を使ってそのような考えを推進しないことを証明するよう求めた。この訴訟の後、NEAは3月8日、訴訟が係争中である間は証明書の提出を求めないことで合意を得ているが、助成金の選定基準の修正には着手されていないと、ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)は報じている。
今回の合意は、ロードアイランド・ラテン・アーツ、ナショナル・クィア・シアター、シアター・オフェンシブ、シアター・コミュニケーションズ・グループなどの原告団にとって部分的な勝利を意味している。これを受け、ACLUの弁護士であるベラ・アイデルマンは、NEAのより広範な制限が依然として芸術の自由に対する深刻な脅威であることを指摘し、こう続ける。
「これは、制限の撤廃に向けた大きな一歩です。この大統領令は、NEAが掲げる目的に反するものであると同時に、芸術の目的であるアイデア、そして人間の経験の多様性を探究するという行為に真っ向から否定しています」
アーティストや芸術団体は、助成金の受給資格に関する不確実性により、申請の承認が遅れることに懸念を示しており、反LGBTQ+法のある国々の劇作家による戯曲を上演するフェスティバルの資金援助を求めているニューヨークのナショナル・クィア・シアターの創設者で芸術監督のアダム・オッドセッス・ルービンは、NPRの取材に対しこう語る。
「この制限は私たちのいわゆる『ジェンダー・イデオロギー』が政府の標的となっており、(今回のフェスティバルの)資金援助の対象外となる可能性があるというのは残酷な皮肉だと言えます」
トランプ政権時代の行政命令の実施における役割について厳しい視線を向けられているNEAは、今回の訴訟に関する声明は発表していないが、過去にも同様の助成金条件をひそかに修正したことがある。2月には、別の訴訟を受けて、申請者が多様性、公平性、インクルージョン(DEI)の取り組みを制限する別の大統領令を順守することを誓約するよう求める要件を同局は取り下げた。しかし、3月24日の期限が刻一刻と迫っており、この訴訟の結果は、連邦助成金を求めているアーティストたちに即座に影響を及ぼす可能性がある。(翻訳:編集部)
from ARTnews